25回受賞作品




実写部門

藤野涼子
Ryoko Fujino
新人女優賞
受賞作品:『ソロモンの偽証』
 宮部みゆきのベストセラー小説を成島出監督が映画化した『ソロモンの偽証』2部作は、中学生の転落死が自殺か他殺かをめぐって前代未聞の校内裁判に発展する。昨今の社会問題になっている中学生のいじめや自殺の問題と真っ向から対峙した秀作だった。特に同級生を演じた若い俳優たちのリアルで自然な演技が素晴らしい。主役に抜てきされ、役名をそのまま芸名にした藤野涼子は、「前篇・事件」の冒頭ではちょっと頼りないが、映画のなかで成長し、どんどんよくなっている。悩みながらも校内裁判をやりとげていく芯の強さやひたむきさ、胸に突き刺さるような目ヂカラで強烈な印象を残した。
 それにしても、現役の中学生である14歳や15歳の子役がどうしてこんなにレベルの高い演技をすることができたのだろうか。プロ、アマ問わずのオーディションには1万人の応募があり、書類選考とワークショップを繰り返して最終的に33人に絞った。それからクランクインまでの2 ヵ月間、毎日放課後の5時から8時まで演技の特訓をした。成島監督に聞くと「藤野涼子は一番の泣き虫で、すぐ泣いちゃうけど、頑張りやで立ち直るのも早かった。芝居の上手下手よりも、彼女の素質に賭けたんですよ」という。
 多くの俳優は、最初にどんな監督や作品と巡りあったかによって、その後の人生が大きく左右される。『ソロモンの偽証』2部作までエキストラ同然の役しか演じたことがなかった藤野涼子にとって、成島監督がたっぷり時間をかけて挑んだ丁寧な映画作りを体験できたことは、役作りや心構えの上で大きな財産になるだろう。まだ若いのだから焦る必要はない。
映画の申し子として、日本を代表するような女優になって欲しい。
(垣井道弘)
山田涼介
Ryosuke Yamada
新人男優賞
受賞作品:『グラスホッパー』
 「Hey! Say! JUMP」のメンバーとして、ひときわ輝きを放っている山田涼介。11 歳でジャニーズ事務所に入って12 年。音楽活動だけでなく、舞台、映画、テレビ、コマーシャル…と幅広く活躍する彼が、2015年、『暗殺教室』で映画初出演にして主演デビュー。地球破壊を宣言した謎の黄色い生物“殺せんせー” の暗殺という行為を通じて、落ちこぼれ生徒たちが成長していくという斬新な設定が話題を集めたこの作品で、山田は主人公の潮田渚を好演し、大ヒットを記録。今年3月(25日)には続編となる『暗殺教室~卒業編~』も公開され、3 週連続で興業収入第1 位を記録し、話題を集めた。
 公開順では2作目となるが、撮影は『暗殺教室』より先に行われたのが、伊坂幸太郎原作の『グラスホッパー』。ハロウィンの夜、渋谷のスクランブル交差点で起きた無差別殺人事件で恋人を殺され、復讐を誓う元教師・鈴木(生田斗真)、自殺専門の殺し屋・鯨(浅野忠信)、ナイフ使いの若き殺し屋・蝉(山田涼介)…それぞれの思惑を秘め、出会うはずのなかった3 人の運命が交錯していく様を描いたもの。
 山田は、キラキラした王子様キャラを封印し、心の奥に深い闇を抱える若き殺し屋という難役に挑戦。驚異的な身体能力と華麗なナイフ捌きで人を殺め、そのことで生を感じる孤独な殺し屋を見事に体現。アイドルの中でも徹底した役作りを行うことで定評のある彼が、格闘技の稽古やナイフの練習に励み、鬼気迫る演技で新境地を開拓。映画俳優としても新たな魅力を知らしめた。全身から漂う殺気、荒んだ目、血まみれの顔…狂気を滲ませたその姿は、料理が得意でスイーツが大好きなイケメンアイドルとはまるで別人。瀧本智行監督も「彼はこれからの日本映画を背負って立つ俳優、最大の発見だ」と大絶賛。次はどんな役柄でスクリーンに登場してくれるのか。楽しみだ。
(津島令子)
板垣瑞生
Mizuki Itagaki
新人男優賞
受賞作品:『ソロモンの偽証』
 1万人の応募者から選考され、『ソロモンの偽証』で主役の神原和彦の大役を射止めたラッキー・ボーイ。映画の中では他校生ながら、死んだ生徒の友人として裁判に参加、証言する。クールな秀才の神原は、特に後篇の裁判シーンで大きな役割を担った。成島出監督は、演技経験の少ない板垣瑞生をなぜ選んだのだろうか。彼はいかにも利発的で、鋭い観察力を秘めるように見える半面、ごく普通の素直で育ちがいい中学生にも見える。いわゆるイケメンであっても冷たい印象を受けることはない、そんなところを見込んだのではあるまいか。
 演技経験は少ないといっても『闇金ウシジマくん Part2』(2014)では、かなり出番が多い悪ガキ役で映画デビュー。菅田将暉や中尾明慶らと親しくなり、俳優としての教えを受けたのは、大きな財産になった。『アオハライド』(2014)では東出昌大の少年時代を演じた。天性の演技センスがなければ、務まらない役だ。10歳のときに母親と買い物に渋谷へ出て、ハチ公前でスカウトされたというから子供時代から光るものがあったのだろう。将来は堤真一や菅田将暉のような振り幅の広い俳優になりたいという夢を持っている。
 『ソロモンの偽証』のオーディションで成島監督は、3次の選考で60人に絞り込み、2 ヵ月間のワークショップを実施。さらに4次選考で33人に絞って出演者を決めた。サッカー好きな板垣瑞生少年はその過程で原石から磨き抜かれて宝石となったのである。『ソロモンの偽証』からは今回新人女優賞に選ばれた藤野涼子や石井杏奈、清水尋也などたくさんの新しい宝石が誕生した。キラキラ光る彼らの輝きが今後どんなふうに増していくのか、楽しみでならない。
(野島孝一)
多部未華子
Mikako Tabe
主演女優賞
受賞作品:『ピース オブ ケイク』
 2005 年『HINOKIO』で「男の子のふりをした女の子」という難しい役で鮮烈にデビューし、同年度の第15 回日本映画批評家大賞で新人賞(小森和子賞)を受賞。  当時、17歳だった多部未華子が、10年経った今回、見事、主演女優賞に輝いた。さわやかな笑顔と清潔感はデビュー当時と変わらないが、ここ10 年で、演技の幅が大きく飛躍し、若手ながら実力派として注目が高まっている。
 これまで映画『夜のピクニック』(2006 年)『君に届け』(2010 年)などで、清純で誠実な少女というイメージが強かったが、今回受賞の対象作品『ピース オブ ケイク』では、不器用で恋愛に依存する「ダメ女」梅宮志乃役に挑戦し、新しい多部未華子の一面を見せてくれた。複数の男優との濃厚なラブシーンや下着姿、浴衣の脚見せといったセクシー場面もあり、大胆な演技を披露。また、酔っぱらって本音を吐き出す場面や、男風呂突入シーンでは、感情むき出しで、体当たりの熱演を見せている。
 映画は、ジョージ朝倉の同名コミックを田口トモロヲが監督したラブ・コメディ。恋も仕事も流されっぱなし、買った植物は枯らしてしまい、独りよりましという理由で言い寄られたら簡単に男と付き合ってしまう、ダメ女の志乃。そんな彼女が、引っ越したアパートの隣人・京志郎に本気で恋をするが、彼には同棲中の恋人がいる……。
 相手役の京志郎には綾野剛が扮し、ほかに菅田将暉、松坂桃李、木村文乃らが脇を固めている。
 京志郎に向かって、正面から“好き” と言って玉砕する志乃は、キュートで切ない。赤っ恥をかきながら、恋愛を爆走する“恋愛ヘタ” の志乃の姿には、思わず“あるある” と共感してしまう。等身大の女性を自然体で嫌味なく演じられる多部未華子は、異性からはもちろん、同性からも支持が高い、と言われるのもうなずける。
 今年は、『あやしい彼女』が公開。「見た目は20 歳、中身は73 歳」という異色のヒロインを演じ、さらに卓越したコメディエンヌぶりを発揮している。
(平山 允)
浅野忠信
Tadanobu Asano
主演男優賞
受賞作品:『岸辺の旅』
 芸能界のボーダーラインが曖昧な日本で、早くから“映画俳優” として確固たる地位を築いてきた浅野忠信。彼に憧れて俳優を志す若者たちも多く、最もリスペクトされている俳優と言っても過言ではない。
 『バタアシ金魚』(1990 年)で映画デビューを果たして以降、映画を中心に活躍を続け、『Helpless』(1996 年)で映画初主演。海外にも活躍の場を広げ、『孔雀』(1999 年)、第60 回ヴェネツィア国際映画祭「コントロ・コレンテ部門」で主演男優賞を受賞した『地球で最後のふたり』(2003 年)、全編モンゴル語でチンギス・ハーンを演じた『モンゴル』(2008 年)など多くの作品に出演。2011 年には『マイティ・ソー』でハリウッドデビューも果たし、話題を集めた。
 世界を股にかけて活躍する浅野忠信が、2015年に出演した日本映画は『母と暮せば』、『寄生獣 完結編』、『岸辺の旅』、『グラスホッパー』。主演男優賞の対象となったのは、黒沢清監督が切ない夫婦愛を描き、第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で日本人初の“監督賞” を受賞した『岸辺の旅』。
 黒沢監督とは『アカルイミライ』以来、12年ぶりにタッグを組んで彼が演じたのは、3年にも及ぶ失踪の後、突然、妻・瑞希(深津絵里)の元へ姿を現わす優介。夫の失踪以来、深い喪失感を抱えながら生きて来た瑞希に自分が死んだことを告げ、3年の間にお世話になった人々を一緒に訪ねる旅へと誘う。旅を続けるうちに、2人は改めてお互いへの愛を深めていくが、いつまでも一緒にいることはできない。告別の時が…という切ないファンタジー。妻役の深津絵里と絶妙のコンビネーションで、死んだ夫、つまり幽霊を好演。浅野がこの世に残していく妻を包み込む優しい眼差し、愛に溢れた表情が心にしみる。
 バンド活動やインスタグラムのユニークな写真も注目を集めているが、浅野忠信にはやはり映画のスクリーンが良く似合う。
(津島令子)
満島ひかり
Fuka Koshiba
助演女優賞
受賞作品:『駆込み女と駆出し男』
 今や満島ひかりは名実ともに平成を代表する名優の一人となった。
 今回の助演女優賞の対象となったのは、『駆込み女と駆出し男』での、離婚を求めて縁切り寺に駆け込むお吟という役。現代とは全く違った江戸時代の女性を演じながらも、何の違和感もなく、そのキャラクターになり切り、たぐいまれなる演技センスを見せつけてくれる。
 1985 年、沖縄出身。いくつかのヴォーカル・ユニット、子役等を経た後、『愛のむきだし』(2009 年)に出演。小動物を思わせるようなあどけない顔と、パンチラもいとわないイキイキとした演技が絶賛され、様々な賞に輝く。
 日本映画批評家大賞でもその年の新人賞(小森和子賞)に満場一致で選出された。授賞式の会場で二言三言会話を交わすことができたが、その時に満島は「お芝居ってあんましっくりしないんですよね。だって好きでもない人に好きって言ったりって、何か変じゃないですか」と無邪気に語っていた。もしかしたらこの人は役者に未練がないんじゃないかと訝りもしたが、一方ではこの屈託のなさにとてつもない可能性が秘められているのではないかと大きな期待を抱いた。
 そこから先は皆さんのご存じの通り。映画やテレビで八面六臂の大活躍。名優と呼ばれる人もテレビでは、演技の質がガクッと下がったりすることがままあるが、彼女は例外中の例外で、どんなドラマでもその役に神がかり的なリアリティーを吹き込んでくれる。
 満島ひかり、安藤サクラ、二階堂ふみ、黒木華、杉咲花、藤野涼子……日本映画界は今、若手の名女優の黄金期を迎えている。満島には、単なる上手い女優を越え、『川の底からこんにちは』で見せたような爆発的な演技で、これからの日本映画界を牽引していってほしい。
(島 敏光)
伊藤淳史
Atsushi Ito
助演男優賞
受賞作品:『ビリギャル』
 「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」は、名古屋市の坪田信貴学習塾長が書いた実話。それが『ビリギャル』と題して映画化。昨年公開された1000本余りの映画の中で興行成績は堂々の16位。個人的には日本映画の中で私は1 位に挙げた作品だ。  主役の工藤さやか役の有村架純もハジけてよかったが、何と言っても、塾の先生坪田義孝役の伊藤淳史の優しい眼差しだけでなく、本人が気がつかない可能性にかける信念ある姿が素晴らしかった。まさに「他人の未来のために、必死でがんばれる人」そのもの。ポジティブな明るさと、気さくな笑顔、生徒の可能性を信じて伸ばそうという姿勢がとても自然で、「こんな人と出会ってみたい」とリアルに誰もが感じるはず。伊藤淳史の人柄と原作者である坪田先生の温かい人間性が滲み出て誕生したキャラクターなのだろう。10 代に戻れたら、絶対勉強しようと思ったほどだ。  現在32歳の彼が、テレビに登場したのは「とんねるずのみなさんのおかげです」の中のワン・コーナー「仮面ノリダー」のチビノリダー役、なんと4歳。子役として数多くの番組に出演していた。1997年映画『鉄塔 武蔵野線』で初主演したが、学生の頃は、芸能界を引退してサッカー選手になろうと思ったほどのスポーツマン。  しかし役者として留まるきっかけは2000年に『独立少年合唱団』の主演の話を受けて「ヤッパリこの仕事」と。決心しただけの事はあって、ベルリン国際映画賞のアルフレート・バウアー賞を受賞した。以後「電車男」「チーム・バチスタの栄光」などテレビ、映画と列挙したらきりがないが、『ボクは坊さん。』(2015)では頭を丸め癒し系の愛すべき人物を真面目になればなるほどユーモアたっぷりに演じていたのも印象深い。これからもチャーミングな笑顔でいろいろな顔を見せて欲しい。
(国弘よう子)
大根仁
Hitoshi Ohne
監督賞
受賞作品:『バクマン。』
 最近の映画界は、漫画誌で評判になった人気漫画の実写化が相次いでいる。週刊少年ジャンプに長期連載された人気漫画を、大根仁監督が実写化した『バクマン。』もその一本だが、よくある少女漫画の学園ラブストーリーや不良少年が喧嘩に明け暮れるヤンキーものではない。ジャンルでいえば料理人や医者と同じような職業もので、漫画が作られる過程や編集者との関係、漫画業界の舞台裏がリアルで説得力がある。画力に優れている真城最高(佐藤健)と文才に自信を持つ高木秋人(神木隆之介)の役割分担が面白い。2人で組んでサクセスを目指す、どこまでも漫画愛にあふれた青春映画に仕上げている。
 テレビドラマを数多く手がけてきた大根仁監督は、1968年生まれ。CGやSFXなど最新の映像技術を駆使する才人である。映画デビュー作の『モテキ』では、主人公と通行人が路上で突然踊り始めるミュージカル仕立ての斬新な演出で驚かせた。本作でも真城と高木が巨大なペンを振り回し、天才と呼ばれるライバルの新妻エイジ(染谷将太)と対決。CGとワイヤーアクションを組み合わせた荒唐無稽なチャンバラを楽しめる。その反面、漫画ペンの使い方や編集者の応対、読者アンケートの結果で連載が打ち切りになるエピソードなどはリアリティがある。
 漫画家といえば、1人で机に向かってコツコツと仕事をする地味で孤独なイメージを持つ人が多いだろう。だが大根監督は、漫画家の脳内イメージに踏み込み、ダイナミックな映像で劇的に面白く見せる。「友情・努力・勝利」そして「恋愛」という、スポーツ映画のような分かり易さもいい。次にはどんなテクニックで何をやってくれるのか、期待感を抱かせてくれる監督である。
(垣井道弘)
松永大司
Daishi Matsunaga
新人監督賞
受賞作品:『トイレのピエタ』
 『トイレのピエタ』は、松永大司監督が漫画家の手塚治虫氏が亡くなる前に書かれたアイデアを原案にして脚本を書いた。それは排泄の場所であるトイレの天井にピエタを描くというものだった。ピエタは、聖母子像と呼ばれる。磔にされて命を失ったキリストを聖母マリアが抱く図で、ミケランジェロはじめ多くの画家によって天井画や壁画としても描かれてきた。松永監督は、これぞ生まれて死んでいく人間そのものを表すものと考えた。
 韓国のキム・ギドク監督も『嘆きのピエタ』という映画で、ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞している。これもまた素晴らしい映画で、両者に共通する「ピエタ」への着眼点がおもしろい。
 『トイレのピエタ』の主人公・宏は、画家の夢をあきらめ、窓ふきのアルバイトをしているフリーター。突然、医師に末期がんで余命3カ月という宣告を受ける。まだ28歳。戸惑う宏の前に、真衣という女子高生が現れた。ありのままをぶつけてくる真衣に宏は翻弄される。
 宏を演じたのは映画初出演のミュージシャン、野田洋次郎。この作品で毎日映画コンクールのスポニチグランプリ新人賞などを受賞。真衣を演じた杉咲花もヨコハマ映画祭などで新人賞を受賞し、俳優の演技も高く評価された。
 松永監督は、もともとは俳優で『ウォーターボーイズ』などに出演。その後、『ハッピーフライト』『蛇にピアス』などのメーキング監督や、テレビドラマの監督を経験。また友人の現代美術アーティストを8年間撮り続けたドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』を監督し、ロッテルダム国際映画祭などで評価された。『トイレのピエタ』は、初の長編劇映画で、日本映画監督協会新人賞も受賞した。まさに前途洋洋たるものがある。
(野島孝一)
松本貴子
Takako Matsumoto
ドキュメンタリー賞
受賞作品:『氷の火花 山口小夜子』
 黒髪のおかっぱ頭に切れ長の瞳で“東洋の神秘” と世界中から称賛され、1970年代からファッションモデルとして国際的に活躍した山口小夜子の足跡を追ったドキュメンタリー映画。
 57歳で急性肺炎のためこの世を去ってから8年経った2015年、山口小夜子の遺品が開封された。それをきっかけに、彼女と交友があり、『≒(ニアイコール)草間彌生 わたし大好き』などのドキュメンタリーを手掛けた松本貴子監督がメガホンを取った。
 「“山口小夜子という宝石箱” を開けていくような思いで作った」と語る。
 映画は、山本寛斎、高田賢三、セルジュ・ルタンス、天児牛大ら山口と親交があった文化人たちの証言を集め、残された貴重な映像を織り交ぜながら、ベールに包まれた彼女の軌跡を辿っていく。
 1972年パリコレクションにアジア系モデルとして初めて起用され、日本人の女性モデルの草分け的存在となった山口小夜子。73年から資生堂の広告塔として化粧品のポスター、テレビのCMに登場、その神秘的で妖艶な美しさに世間の注目が集まった。またニューズウィーク誌から「世界のトップモデル」の一人にアジア人として初めて選ばれるなど、世界的にも脚光を浴びる。その後も長くトップモデルとして世界のモードを席捲していった彼女は、鈴木清順、寺山修司、山海塾といったアンダーグラウンドな映画や演劇、ダンスなど多彩なジャンルに進出し、ファッションとの融合を目指したパフォーマンスに力を注いでいく。
 さらに晩年は、若い世代のクリエーターたちとのコラボレーションを行い、時代の最先端を走り続けた。
 トップモデルだけではおさまらずに、常に“新しい小夜子” を表現するための努力を惜しまず、妥協を許さなかった「表現者・山口小夜子」の魅力に迫る作品となっている。
(平山 允)
ソロモンの偽証
Solomon's Perjury
作品賞
監督:成島出
 この映画、前後篇に分かれているのには、ちょっとまいった。徐々にサスペンスが盛り上がり、緊張感がマックスに達した瞬間、バチッと前篇が終わる。その先が一刻も早く見たくてたまらない……それだけのめり込んで観ていたということでしょう。
 雪の校庭に転落死した男子中学生。警察は自殺と発表するも、「本当は殺されたのです」という怪文書が届き、校内は浮き足立つ。隠された真実を見つけるため、一人の女子中学生(役名も芸名も藤野涼子)が立ち上がり、校内での裁判が行われることに……。
 原作は「火車」「理由」などで知られる宮部みゆきの同名小説。9年間に渡って小説新潮に連載され、2000ページを超す大作のため、さすがに一本にまとめることは出来なかったが、完成した作品は若干のアレンジを加えながらも、原作に描かれた普遍的な社会性や若者の持つみずみずしい感性を、過不足なくスクリーンに投げかける。
 これは『油断大敵』『草原の椅子』などでタッグを組んだ成島監督と脚本家の真辺克彦の手腕に負うところが大きい。
 約10000人を超える応募者の中から、第一次から四次選考までを通過した33人の中学生たちもまた、成島監督の繊細で綿密な演出に応え、リアルで自然な演技を見せている。
 今回の新人賞に選出された藤野涼子、板垣瑞生はもちろんのこと、望月歩、石井杏奈、清水尋也等の新人たちも文句なしの演技を披露。それを受け止める小日向文世、黒木華、松重豊、田畑智子等もうまいうまい……。
 中学生たちの信念に向かって突き進む姿と揺れ動く心。彼らを取り巻く大人たちの優しさと悪意。マスコミの正義と独善。そのすべてがバランス良く溶け合って、抜群の面白さに富んだ、堂々たるミステリー超大作が誕生した。
 こういう映画を見ると、日本映画の将来はきっと明るい、と思えてくる。
(島 敏光)
伊藤伸行
Nobuyuki Ito
編集賞
受賞作品:『天空の蜂』
 人気作家・東野圭吾が原子力発電所を題材に1995年に発表した傑作小説を、堤幸彦監督が映画化した社会派サスペンス。最新鋭の大型ヘリを手に入れたテロリストが、日本全国の原発の停止を求め稼働中の原発上空でホバリングさせるテロ事件を描く作品です。東日本大震災による原発事故を経験した日本において、改めて社会と人間の在り方を問う衝撃作です。本年度の浦岡敬一賞の受賞は、そんな大作を編集された伊藤伸行氏に決まりました。
 この作品は、前半過ぎまでステディカムで移動しながらのカットが多いと思います。
 セリフとセリフで繋いでいく……
 不安感をあおっていく……
 どきどきするカメラワークと編集で進んでいく……
 その中で的確なカットイン(カットとカットの中に違う素材を入れていく手法)が入っていく見事な編集がこの作品の味になっています。最も本年度の浦岡賞にそぐわしい作品です。
 伊藤伸行氏は、最初に手ほどきを受けた、今は亡き菅野善雄氏(『ミナミの帝王』)など多くの諸先輩に就かれたと思います。
 また、1995年に、編集 浦岡敬一、チーフ助手 矢船陽介、セカンド助手 伊藤伸行、ネガ編集金子尚樹で編集した『眠れる美女』が思い出される作品です。伊藤氏も浦岡氏の手ほどきを受けている一人なのです。
 真面目な性格の伊藤氏は、多くの作品に参加し、現在素晴らしい技師へと成長されました。これからは、伊藤氏たち若手の編集マンの時代です。日本映画批評家大賞としては、今回の受賞でますますのご活躍を願っています。
(事務局)
池永正二
Shoji Ikenaga
映画音楽賞
受賞作品:『味園ユニバース』
 日本には音楽映画と呼べる映画が少ない。
 ミュージカル映画の本場ハリウッドでも減少傾向にあるが、日本ではミュージカルはもとより音楽の現場を描いたバックステージものも年に数本しか公開されない。
 そんな時、『リンダ リンダ リンダ』『もらとりあむタマ子』等、若者たちの日常を独特の感性で描く山下敦弘監督の『味園ユニバース』が登場した。
 「味園」とは大阪の千日前に建つ実在のビルの名前で、そのビルに作られた豪華でケバケバしいキャバレーが「ユニバース」。この店は2011 年にその歴史に幕を下ろしたが、現在では貸しホールとして営業が再開されたと聞く。
 サブカルの匂いのプンプンする赤犬(実在する!)というバンドのマネージャーを務めるカスミ(二階堂ふみ)は、記憶は失ったが歌だけはうたえる男(渋谷すばる)を家に連れて帰り、ポチ男と呼んで家の中にあるスタジオに住まわせる。ポチ男は記憶のないまま赤犬のヴォーカルとなるが……。
 見どころ聞きどころは「関ジャニ∞」の渋谷の圧倒的な歌唱力と二階堂の天才的な演技力。さらには劇中で行われる「全日本赤犬歌謡祭」の模様。B級テイストのバンドが次々に登場して、怪しげで魅力的な浪花スピリッツをぶつけて来る。
 「音楽映画にメッセージや説教臭さはいらない。理屈じゃない何かを届けたい」と語る山下監督。劇中では渋谷は「ココロオドレバ」「気憶」の2曲の他、和田アキ子の「古い日記」を熱唱。「裏ナンバ」と呼ばれる街の活気と雑踏を届けてくれる。音楽担当の池永正二が、このカオスに一本の筋道を通している。
 こんな楽しい音楽映画を、次は東京を舞台にして作ってもらいたいものだ。
(島 敏光)
真辺克彦
Katsuhiko Manabe
脚本賞
受賞作品:『ソロモンの偽証』
 宮部みゆきによる長篇推理小説「ソロモンの偽証」の映画化は、前篇、後篇を合わせると267分の大作。「事件」「決意」「法廷」からなる3部構成の小説は原稿用紙にして4700枚。この分厚い読み応えのある作品を脚本家・真辺克彦が見事にまとめあげている。
 1995 年オリジナルビデオ「ミッドナイトストリート~湾岸ドリフト族」で脚本家としてデビュー。主な映画作品は『スリ』(黒木和彦監督・堤泰之と共同脚本 2000) 、『少女~an adolescent』(奥田瑛二監督・成島出と共同脚本 2001)、『油断大敵』(成島出監督・小松與志子と共同脚本 2003)、『サイドカーに犬』(根岸吉太郎監督・田中晶子と共同脚本 2007)、『歓喜の歌』(松岡錠司監督と共同脚本 2007)、『毎日かあさん』(小林聖太郎監督 2011)、『脳男』(瀧本智行監督・成島出と共同脚本 2013)、『草原の椅子』(成島出監督・成島出、加藤正人、奥寺佐渡子、多和田久美と共同脚本 2013)など。テレビドラマでは「深夜食堂」のシリーズ、さらに鴨義信とともに脚本ユニット「公園兄弟」としても活躍。他にアニメなどの共同脚本と幅広く活躍している中堅どころ。
 この日本映画批評家大賞より一歩早く『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(成島出監督 2015)で真辺克彦は、脚本家たちが脚本を読んで選出するシナリオ作家協会「菊島隆三賞」を受賞している。そこで「大人がだらしなかった事もあった中で傷だらけになりながら本当の事を調べようとする“生きていく力強さ” みたいなものにエールを送りたくて」と原作に魅かれた想いを語ったのが印象的だった。映画作りのすべての人々が手にする脚本。脚本家は台詞だけではなくすべてのバランスと調和、原作の魅力、監督の意図など紡ぎ出すいわば映画の中核でもある。そんな脚本家・真辺克彦の次回作は『破門』(小林聖太郎監督・来年公開)、その手腕が楽しみ!
(国弘よう子)
町田博
Hiroshi Machida
撮影賞
受賞作品:『FOUJITA』
 小栗康平監督が10 年ぶりにメガホンをとった『FOUJITA』の撮影を担当して、好評を博した。『FOUJITA』は世界に認められた日本人画家、藤田嗣治の生涯を描いた意欲的な作品だった。前半は1920年代のパリ。おかっぱ頭、丸いメガネのフジタをオダギリジョーが演じた。貧乏絵描きから日本画の画法を取り入れた乳白色の裸婦像で有名になり、大金を稼ぐようになる<エコール・ド・パリ>時代が描かれる。画家とモデルの乱れた関係、パーティでの乱痴気騒ぎ。奔放な芸術家たちのやりたい放題。フジタはお調子者という意味の「フーフー」と呼ばれ、しばしば道化ものの役を甘んじて受けていた。この時代を町田カメラマンが撮った映像は、明暗に重きを置いた泰西名画を見るような画調で、きわめてヨーロッパ映画に近い。
 ところが後半は一変して日本でのシーンに移る。1940年の日本。それはまさに戦争の時代だった。フジタは軍部から戦争画の協力を頼まれ、「アッツ島玉砕」などの大作を描き上げた。ただし、それは戦意高揚画とは程遠く、戦争の悲惨さがリアルに描かれていた。戦局が悪化し、フジタは妻の君代(中谷美紀)と共に田舎へ疎開する。町田カメラマンの面目躍如たるは、その田舎の風景だ。1本だけ生えた巨大な樹木の根元に道祖神が祭られている風景。キツネが走る不思議な光景。遠景を多用したカメラワークのすばらしさ。「これぞ日本の文化」と何回うならされたことか。
 1本の映画の中に、パリと日本が同居する撮影の困難さを想うだけで気が遠くなりそうだ。この偉業を成し遂げた町田博カメラマンと小栗康平監督には、心から敬意を表したい。
(野島孝一)
中みね子
Mineko Naka
特別賞
受賞作品:『ゆずり葉の頃』
 2015年、中みね子監督が76歳にして初監督作品『ゆずり葉の頃』を撮り上げ、高齢の監督デビュー作として話題を呼んだ。脚本も本人のオリジナルなら、企画、製作も兼ねている。
 いったいどんなスーパー・ウーマンかと思いきや、本名は岡本みね子さん。『独立愚連隊』(1959)や『日本のいちばん長い日』(1967)などで知られる名監督、故・岡本喜八監督夫人である。1968年の『肉弾』以来、多くの岡本作品をプロデュースし、夫をサポートし続けてきた。1991年の『大誘拐』では、女性として初めて、功績のあった映画製作者に贈られる藤本賞を受賞するなど、映画界では知られた才女なのだ。
 映画監督に挑戦したのは、「岡本監督の七回忌を終えても寂しさがあり、何か書いていないとつらくてシナリオを書き始めた」ことがきっかけ。大学の映画研究会で脚本家を目指していた頃の“初心に戻る” という意味を込め、結婚前の旧姓・中みね子を名乗り、初めて監督に挑んだ。
 映画は、過去を封印して生きてきた年老いた女性・市子が主人公。市子は少女の頃に思いを寄せた男性が世界的に高名な画家となって個展を開くことを知り、一枚の思い出の絵を探しに初秋の軽井沢へ旅に出る。理由も言わず旅に出た母を気にかけ、後を追う息子……。一途な思いを貫いた女性の静謐なラブ・ストーリーだ。
 主人公・市子を演じるのは八千草薫。彼女は岡本喜八監督が助監督時代に就いていた故・谷口千吉監督夫人でもあり、中監督とも旧知の間柄。本作に共鳴して企画段階から参加をした。市子が思いを寄せる画家役には、岡本監督とはデビュー当時からの親友、仲代達矢。息子役の風間トオルをはじめ、岸部一徳、本田博太郎ら、岡本喜八作品でお馴染みの俳優陣が、新人・中監督にエールを送って出演している。
(野島孝一)
豊島公会堂
Toshima Public Hall
特別賞
 豊島公会堂が開館したのは、1952年(昭和27年)のこと。東京大空襲により区内の7割ほどが焦土となり、多くの公共施設が焼失した豊島区で、区民の期待を背負い、わずか8カ月の工期で完成に至りました。開館翌年にはNHKのど自慢大会の公開録音が開催。65年には都はるみさんによるショーが行われた他、成人式から政治集会まで、創建から63年間の長きに亘り、幅広い行事などにより、多くの区民や一般団体に親しまれてきました。
 しかし、2016年4月、豊島区は大きな転換期を迎えました。豊島区の中心でもあった、豊島区旧庁舎、豊島公会堂の2 つの施設が取り壊しとなったのです。
 日本映画に於いて豊島公会堂は、数多くの作品の試写をはじめ、映画人には思い出深い施設であります。
 また、アニメに於いて、豊島区は、現在のアニメ文化発祥の地ともいえるのではないでしょうか。1950年代から60年代初めにかけて、椎名町(現豊島区南長崎)に、手塚治虫氏をはじめ、マンガの新たな時代を切り拓いた巨匠たちが青春時代を過ごした木造2階建てアパート「トキワ荘」がありました。そして、そのトキワ荘から始まったマンガ文化の源流が、現在のアニメ文化につながっているのではないでしょうか。近年、乙女ロードなど、アニメ関連コンテンツが池袋を中心に集積してきており、「アニメの聖地」として、若い女性たちの人気を集めています。また、多くの芸術家が暮らしたアトリエ群「池袋モンパルナス」など、古くから文化的な土壌が醸成してきました。
 豊島公会堂はその歴史に幕を閉じますが、2020年、その跡地は劇場都市へと生まれ変わります。世界へと発信する拠点を目指し、様々な文化を一堂に介し、未来に向けて「国際アートカルチャー都市としま」として、演劇、映画、そしてアニメの街へと、常に新しい文化を発信し続けていくのです。
 日本映画批評家大賞としては、その今までの功績、これからの発展を称え、豊島公会堂へ特別賞をお贈りする事と致しました。
(事務局)
松永文庫
Matsunaga bunko
特別賞
 
 北九州門司港レトロの街に日本映画の歴史があります。
 その一つ松永文庫は、1997年(平成9年)10月、松永武氏が映画研究ためにおよそ60年にわたって収集した映画芸能関連の資料を、門司区長谷の自宅を改装して無料公開し誕生しました。2009年(平成21年)11月、これらの資料すべてを北九州市に寄贈。北九州市の文化施設として、門司市民会館内(門司区老松町)で無料一般公開されました。2013 年(平成25 年)からは、旧大連航路上屋にて資料展示を行っています。
 現在、これほどの資料を展示している映画資料館はそう多くはありません。館内に一歩踏み込めば昭和初期のポスターが並び、大正時代のチケットやチラシ、台本が何万点も見ることが出来るのです。ポスターは映画会社などのジャンル別に整理されており、昔の映画新聞記事や台本のその数には目を見張る物があります。
 映画資料研究科第一人者の松永氏。日本映画をこよなく愛した、まさしく映画人です。
 松永武館長は、1935年(昭和10年)門司生まれ。19歳で映画監督を目指して京都へ。野村芳太郎監督代表作『砂の器』の門下生として、青雲の志で映画界に入ったそうです。その後、海運関係の仕事に従事しながら、映画研究のため資料の収集を始めます。そして、「映画の街・北九州」をスローガンとして映画支援している北九州市。北九州市門司港全体は、巨大なオープンセットの様に感じられます。
 「松永文庫」は、今回の日本映画批評家大賞・特別賞をお渡しするに相応しい施設だと思い、お贈りさせて頂くこととしました。
(事務局)
濱口竜介
Ryusuke Hamaguchi
選考委員特別賞
受賞作品:『ハッピーアワー』
 『ハッピーアワー』は、市民参加による「即興演技ワークショップin Kobe」から誕生した、5時間17分という大長編映画である。メガホンを取ったのは、東日本大震災のドキュメンタリー3部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』(2011 ~ 13 年)や映画学校の生徒たちを起用した4時間を超える長編『親密さ』(12 年)など、常に挑戦的な作品を撮り続けている、濱口竜介監督。
 映画の舞台は神戸。主人公は30代後半の女性4人組。彼女たちはそれぞれに悩みを抱えながらも、親友同士の絆で結ばれている。中学生の息子がいる桜子(菊池葉月)は同居を始めた姑との付き合いに気を遣う毎日。芙美(三原麻衣子)はうわべだけは良好な夫婦関係に疑問を持っている。バツイチ独身の看護師あかり(田中幸恵)は、出来の悪い後輩に手を焼く。
 順調な結婚生活を送っていると思われていた純(川村りら)。その純が離婚協議をしていることを打ち明けたことをきっかけに、4人の穏やかな日常が、揺らぎ出す。「今の私は本当になりたかった自分なのか?」「本当に伝えたいことを言葉にできているのか?」……。日頃の忍耐が限界に達し、張り詰めていたものが切れて根源的な疑問にぶち当たってしまったヒロインたちが、友情と孤独の狭間で、もがき、傷つき、慈しみ合う姿をじっくりと描いている。
 5時間を超える異例の長さの映画だが、4人の女性たちの本音や苦悩が徐々に明らかになっていく展開がスリリングで、少しも長さを感じさせない。会話シーンなどは、まるでドキュメンタリーのようで、不思議な感覚にとらわれる。
 主役の4人をはじめ、出演者のほとんどが演技の経験がなく、濱口監督が神戸市で開いた即興演技ワークショップに応募してきた人たちという。そんな彼女たち4人は2015年8月に行われたスイスのロカルノ国際映画祭で、4人そろって最優秀女優賞に輝くという偉業を達成している。
(氷川竜介)
草村礼子
Reiko Kusamura
ゴールデン・グローリー賞
 
 今から20 年前、『Shall we ダンス?』でその姿を初めて見た時の感想は、何て品のいいオバサン! 平凡なサラリーマン(役所広司)が美しい社交ダンスの教師(草刈民代)に想いをつのらせ、ダンス教室に通うも、実際に指導に当たることになったのは明らかに年上の「たま子先生」。この年配の先生に扮したのが草村礼子。ここで男が失望し、ダンスを続けていく意志を失くしてしまっては物語は成立しない。草村礼子には男に、あこがれの先生じゃないけれど、このオバサンに習うのもアリか、と思わせるだけの魅力と説得力が備わっていた。
 1940 年、東京の三鷹生まれ。「東京小劇場」等の劇団で精力的に活動を続け、1990 年の「一人芝居・じょんがら民宿こぼれ話」では文化庁芸術祭賞等、様々な賞に輝いたものの、映画の世界ではまだ顔の知られた存在ではなかった。『Shall we ダンス?』で一気にブレイク、その後『Quartet カルテット』『たそがれ清兵衛』『感染』『食堂かたつむり』『仮面ライダー× 仮面ライダー× 仮面ライダー THE MOVIE 超・電王トリロジー』と、現代劇、時代劇、ホラーから特撮ヒーローものまで、ありとあらゆるジャンルの映画に挑戦。山田洋次監督のような大ベテランから無名の新人の作品にまで、精力的に出演を果たしている。古巣である舞台はもちろん、TV 出演も枚挙にいとまがない。
 最近では『バケモノの子(声の出演)』、『orange -オレンジ-』の他、『ベトナムの風に吹かれて』での認知症の女性の役が記憶に残る。
 華やかなロングドレスも似合えば、着物も着こなす。日本人のおくゆかしさと優美を体現し、出しゃばらず、埋もれず、東京生まれならではの粋で程良い演技。この先もまだまだ息の長い女優として、日本映画界を支えていってもらいたい。
(島 敏光)
仁科亜季子
Akiko Nishina
ゴールデン・グローリー賞
 
 歌舞伎役者、岩井半四郎の娘として、よく知られている。姉は女優の岩井友見、妹は女優の仁科幸子。学習院女子高校を卒業後、仁科明子の芸名で、NHKのテレビドラマ「白鳥の歌なんか聞えない」の主演で芸能界デビューし、お嬢様女優として大人気を博した。松方弘樹と1979年に結婚後、芸能界を引退していたが、98年に離婚。99年に芸能界に復帰した。そのときに芸名を仁科亜季子に変えている。映画女優としては、「仁科明子」時代は、加藤泰監督の松竹映画『宮本武蔵』(1973)に続き、東宝の小谷承靖監督作品『はつ恋』(1975)に出演。この映画は、ツルゲーネフの「初恋」を翻案した映画で、井上純一が演じた少年が想いを寄せる年上の女性を演じて、<お嬢様女優>からのイメチェンを図った。市川崑監督の『悪魔の手毬歌』(1977)では村出身の人気歌手・大空ゆかりという重要な役で出演している。
 引退後、女優に復帰してからの「仁科亜季子」時代は『精霊流し』(2003)『いつか読書する日』(2005)『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(2011)などの良質な作品で、優しい人柄を感じさせる脇役として映画を支えてきた。その中でも『MAZE マゼ~南風~』(2006)は蟹江敬三の初主演であり遺作となった作品で、仁科亜季子は老漁師(蟹江)と孫を何くれとなく世話をするスナックのママを演じて存在感を見せた。
 結婚中の1991 年に子宮頸がんを発症。その後も大腸がんなどで度重なる手術を受けた。がんの早期発見、子宮頸がん予防ワクチン普及などを訴える活動に積極的に参加。明るく、前向きな姿勢は多くの人々に感動と勇気を与えている。
(野島孝一)
浜田光夫
Mitsuo Hamada
ゴールデン・グローリー賞
 
 戦後生まれの団塊世代にとって、日活純愛路線を担っていた浜田光夫は、憧れの存在でありながら、まるで親戚の兄貴のような親しみを感じさせた。戦後、銀幕の大スターとして君臨した石原裕次郎や三船敏郎や原節子は年齢が離れすぎていたので、遠い世界の人だったが、浜田光夫と吉永小百合のフレッシュコンビで生まれたヒット作の数々は、団塊世代の青春と重なり合っている。
 1943年、東京都生まれの浜田光夫は、子役時代から天性の演技力があり、12歳のときには若杉光夫監督の『石合戦』(1955 年)で主役の少年に抜てきされた。そして高校3年生のとき、同監督の『ガラスの中の少女』(1960 年)で吉永小百合と初共演し日活入り。浜田・吉永の若々しい名コンビはたちまち人気爆発して、実に44本もの作品で共演した。浦山桐郎監督の『キューポラのある街』(1962年)、中平康監督の『泥だらけの純情」(1963年)、斎藤武市監督の『愛と死をみつめて』(1964年)など映画史に輝く名作が忘れられない。トップスターになった浜田は、和泉雅子や松原智恵子とも共演、社会派作品にも出演した。そのころ田舎町の高校生だった筆者は、大ヒット作の『愛と死をみつめて』に感化され、ラブレターを書いては破っていた。
 しかし人生は時に残酷で、何が起こるか分からない。1966年,浜田は傷害事件に巻き込まれてバンビの目と称された右眼に大ケガをした。失明をまぬがれたものの、4度の手術を決行。カムバック後は、バイプレイヤーとして多くのテレビドラマに出演。映画では『天平の甍』(1980 年)や『1リットルの涙』(2005 年)が話題になった。元気に活躍する浜田光夫の姿を見ると、自分もまだ頑張れるのではないかと勇気が湧いてくる。
(垣井道弘)
吉永小百合
Sayuri Yoshinaga
ダイヤモンド大賞
 
拝啓 吉永小百合様
 日本映画批評家大賞は、誇りをもってあなたをダイヤモンド大賞に推挙します。
あなたのことをよく、国民的女優と呼ばせていただいておりますが、それはどなたにも異論がないでしょう。1950年代終わりから、60 年代の初めにすい星のように映画界に現れたあなたの活躍は、まことに目を見張るものがありました。日活時代には浦山桐郎監督の『キューポラのある街』をはじめ、『青い山脈』『いつでも夢を』『伊豆の踊子』『潮騒』『愛と死をみつめて』などのヒット作が連発されました。あなたのファンたちは自らを「サユリスト」と称し、スクリーンに映るあなたの姿に熱狂しました。その後、映画は次第に斜陽の道をたどりましたが、あなたの映画に対する真摯な姿勢は少しも乱れることがありませんでした。『戦争と人間』『青春の門』『細雪』『おはん』『映画女優』『華の乱』『時雨の記』『北の零年』『ふしぎな岬の物語』など数々の名作映画に主演され、女優として輝かしい成果を上げられました。
 また山田洋次監督とは、『男はつらいよ 柴又慕情』でご一緒されてから『母べえ』『おとうと』、そして最新作『母と暮せば』に至るまで、すばらしいコラボを築いてくださいました。まさに日本映画を代表する作品ばかりです。
 映画に限らず、あなたの活躍の場はテレビドラマから、音楽活動にも及んでおります。わけても朗読には力を入れられており、原爆詩の朗読活動や福島原発被災地に対するいたわりの気持ちは多くの方々の共感を呼んでおります。大勢の俳優たちはあなたの姿勢を見習おうと考えているはずです。  どうかお元気でご自愛ください。
敬具
(野島孝一)
山田洋次
Yoji Yamada
ダイヤモンド大賞
 
 いうまでもなく、日本を代表する大監督であり、世界中から「今度はどのような作品を送り出してくれるのか」と注目を集めている巨匠。ギネスブックにも認定されたシリーズ映画『男はつらいよ』全48作は、国民的映画として親しまれてきた。コメディーでありながら、温かい人情に包まれ、観客は笑ったり泣いたりで大忙し。盆と正月に公開される「寅さん」を心待ちにしていた大勢の庶民がいたことは忘れられない。実録やくざ映画などで殺伐とした雰囲気の映画界で、「寅さん」映画の人情の温かさは一種の救いになっていた。
 渥美清の死去で『男はつらいよ』は終結してしまったが、山田監督の製作意欲は衰えを知らない。最近の作品を見るだけでも、『母と暮せば』では母と原爆で死んだ息子との心の絆の深さに、あふれる涙を止めることができなかった。『家族はつらいよ』は小津安二郎監督の系譜のような『東京家族』の続編的な作品で、山田監督のユーモアのセンスが光っている。このようなファミリー映画は、山田監督の得意とするところだが、『小さいおうち』などを見ると、<時代>というものが、しっかり描きこまれている。このように<時代>と社会情勢を、これ見よがしでなく、それとなく映画に反映させているのが山田洋次監督作品だと思う。『男はつらいよ』でも、少しずつ時代が移り変わっていく様子を画面の片隅にとどめている。
 山田監督が時代劇を送り出したときには、かなり驚いたし、戸惑った。『たそがれ清兵衛』では真田広之と田中泯のすさまじい斬りあいがあり、暴力的な描写がめったにない山田監督作品では考えられなかった。だが、「必要ならやるし、ほかの映画にはないものを見せる」という気持ちだったと思う。この作品を当時の外国語映画賞日本代表選定委員として、米アカデミー賞に日本代表として推薦できたこと、外国語映画賞ベスト5としてノミネートされたことを誇りに思っている。
(野島孝一)




アニメ部門

渕上舞
Mai Fuchigami
新人声優賞
受賞作品:『ガールズ&パンツァー 劇場版
 渕上さんの演技についての初めての感想は、可愛らしい声の中に、非常にしっかりした幹を感じさせる強さがあるというものでした。恐らくそれは、キャラクターに真摯に向き合い、特性をうまく引き出してきた数々の仕事で、鍛えられてきたものと思われます。渕上さんの代表作の一つは、「ガールズ&パンツァー」の西住みほ役ですが、キャラクターの内に秘めた芯の強さと渕上さんの演技の幹の太さが見事にマッチし、数多くの豊かな個性がひしめく作品の中で、一際目立った存在感を示しています。スピード感、緊張感があふれる場面から、静寂の中でしっかり伝えなければならない場面に至るまで、実にうまく演じ切っています。
 そして、その実力は、「暗殺教室」の潮田渚役でも、物語の語り部として、主役級として、十分に発揮されています。見た目の可愛らしさとは正反対に、時々見せる恐ろしいほどの殺気、根性の座ったキャラクターを見事に演じています。
 さらに、多くのアニメファンに愛されている渕上さんならではのキャラクターがいます。それは、「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」のイオナです。可愛いながら無機質なキャラクターを、淡々と感情を抑えて演じていますが、台詞のタイミング、間の上手な取り方は、ぞくっとするほど見る人を作品に引き入れていきます。
 渕上さんは、演じるキャラクターが増えれば増えるほど、内に持つ引き出しの多さを感じさせてくれます。また、歌やイベントへの参加など、仕事に対する姿勢を評価する声が多く聞かれます。これからもたくさんの役が待っています。渕上さんならではの仕事を見せて行って下さい。さらなる活躍を期待しています。
(川崎由紀夫)
水瀬いのり
Inori Minase
新人声優賞
受賞作品:『心が叫びたがってるんだ。』
 『心が叫びたがってるんだ。』は、アニメにありがちな奇妙な設定のない、直球勝負のアニメである。  主人公である女子高生は「喋れない」という後天的な特徴を持つが、特殊な天賦の才等によってキャラクタライズされているわけではない。物語の背景も現代のしっとりとした秩父地方であり、展開においても大事件が起きるわけではない。言ってみれば、観客の現実感の範囲内にある(ある意味劇場版アニメを製作することが躊躇われるような)物語装置内でこのアニメは展開する。
 しかし原作もないこの劇場版オリジナルアニメは成功した。10億円を超える興行成績。年をまたぐロングラン。とは言え、客観的データでは、却ってこの作品を見失うことになる。
 殻を破ろうとする、もがきや苛立ち。自らの伸びやかな歌声を発見する、新鮮な驚き。そして初恋。この映画を支えているものは、「うん、うん」と頷く観客の共感である。展開する物語が、自らの思春期の実感と感応することの歓びを得るために、人々はスクリーンの前に座る。まるで、観客の内面の頷きが聞こえるような映画ではないか。
 この映画で、水瀬の存在は大きい。
 ある種平凡な高校生活が描かれるこの作品で、劇場まで観客に足を運ばせる主役を演ずるというのは、彼女にとっては大きなチャレンジであったに違いない。主人公に与えられた特徴が、声優の立場を否定するかのような「喋れない」という役割であれば、なおさらである。要求される演技のレベルは、新人には酷であったかもしれないと想像する。
 その意味では、水瀬を見い出し抜擢した、製作陣の慧眼を称えるべきかもしれない。彼女が、どれだけ多くの観客から共感を得られる声優であるかを把握していたという意味において。19 歳の彼女が、この成功した劇場版アニメからスタートを切ったことを祝福したい。
(事務局)
小桜エツコ
Etsuko Kozakura
ダイヤモンド大賞
受賞作品:『妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!
 人物に声を当て、性格付けすることは、もちろん大変な作業ですが、同じ声に関する仕事でも、キャラクターに声を当てることは、演ずる側に違ったプレッシャーをかけます。何故ならば、声当てによって、キャラクターに魂が入り、生き物に変化させるからです。人物の声は、物語の推移、成長の過程で、演技も変化していくことが多いのですが、キャラクターの声は、作品スタート時に、喜怒哀楽のリアクションや性格付け等、ほとんどが固まっていなければなりません。また、仕事の評価のカギを子供達が握っていることも、この仕事の難しさです。演じる側は、常に、キャラクター、そして子供達と戦っています。
 さて、小桜エツコさんは、その戦いを数多く経験してきました。「ミル・ミル・ミルモでポン!」(「ミルモでポン!」のミルモ役)、「ポーチャ、ポチャポチャポチャ」(「ポケットモンスター」のポッチャマ役)、「んだるぞぬっしゃー」(「ケロロ軍曹」のタママ二等兵)等々。何故か、丸顔のキャラクターを演じることが多かったようですが、この歴戦の末生まれたのが、「妖怪ウォッチ」のジバニャンです。皆さん知っていましたか?ジバニャンは、トラックにひかれた猫が成仏できず地縛霊になった妖怪で、尻尾を二本持ち、火の玉模様の顔は、猫の執念深さを表現したものなのです。悲しさと剽軽さを併せ持つ複雑なジバニャンが、小桜さんの声で愛らしいキャラクターとして確立した瞬間でした。普段は控えめな方ですが、アドリブは完璧、生でもかまないなど、頼もしさもあり、ゲームアプリ「妖怪ウォッチぷにぷに」では、ついにガチニャンという御自身のキャラクターも生まれました。これからも、ガチ魂で、子供達に愛されるキャラ作りに邁進してください。
(川崎由紀夫)
中尾隆聖
Ryusei Nakao
最優秀声優賞
受賞作品:『ドラゴンボールZ 復活の「F」
 原作者・鳥山明の脚本による、ドラゴンボール史上最強の敵、フリーザ様の復活に世界中のファンが湧いた。その興奮は、中尾隆聖の声なしには得られなかったものだ。
 キャラクターを記憶に深く刻みこむ天性の声と、子役から俳優さらに舞台で培われた演技力を持つ中尾は、5才から芸能界で活動を始め、昭和40年に声優デビューし、声優歴は50年。代表する「ぽろり」「ばいきんまん」「フリーザ」の3キャラクターがいずれも長寿であり、それゆえ日本中誰もが知る「声」の持ち主となった。
 NHK「おかあさんといっしょ」の着ぐるみ劇で全2229 話という最長記録を誇る「にこにこぷん」でぽろり役、さらに続く「ドレミファ・どーなっつ!」でれおなるど・とびっしー役を演じ、2 作合わせて18 年間ものあいだ全国の親子に声を届けた。しかし同時期に「それいけ!アンパンマン」の悪役である、ばいきんまん役のオファーがあり、中尾はテレビの前の子供達が混乱することが無いように、喉に負担のかかるダミ声を作り出す。この声が大人気を博し、現在も続く長寿キャラクターに育った。そして1990年に「ドラゴンボールZ」フリーザ役と出会う。中尾の声で圧倒的な個性を与えられたフリーザは、主人公悟空の敵役であるにもかかわらず、ファンから「フリーザ様」と呼ばれる人気を得、今回の映画で題名通り” 復活” を果たした。
 中尾はかつてインタビューで、アフレコで心掛けている点として「役者と息を合わせること。言葉は最後」「アニメは監督やアニメーターが絵に息を入れている。集中力が欠けるとこれを見逃す」という興味深い発言をしている。真剣に向き合って、命を吹き込まれたキャラクターだからこそ、これほど長く、多くの人達に愛されているのだ。
 中尾隆聖がいる限り、ヒーローが輝くための「最強ヒールの座」は当面、破られる気配はない。
(野島孝一)
ガールズ&パンツァー
劇場版
GIRLS und PANZER
The Movie
サンクチュアリ作品賞
監督:水島努
 本作品は、第二次世界大戦前に製造された戦車を忠実に再現、絵も細部にこだわり、各戦車の性能、特性に合わせて登場させるなど再現性が高く、ミリタリーファンを大いに唸らせました。
 さらに、華道、茶道同様、嗜みとして「戦車道」を用いる大胆なアイデア、可愛い女性が一生懸命戦うというスポコンアニメ的な要素、決して人が死ぬことがないストーリー……。本作品は、ミリタリーファンからの賞賛に加え、アニメファンの心もぐっと掴みました。そうした高い評価の中で、劇場版をどのように作り上げるのか? 皆の注目を集めました。
 アニメファンの期待に応えられる劇場版とは何か? 制作サイドが、いつも突きつけられる難題です。この作品は、ものの見事にそのハードルをクリアし、映画でなければできないエンターテイメントを実現しています。
 綿密に練られた緻密さ、大いなる遊び心、その中で、特徴がはっきりしたキャラクター達を縦横無尽に動かしています。制作陣の粘り強い、丁寧な仕事ぶりが、作品からひしひしと感じられます。
 また、今回の劇場版でも、海、街並み等、大洗という実在の舞台を、自然な形で作品に生かしています。アニメは、言うまでもなくファンに支えられています。実在し、訪れることの出来る街を描くことは、ファンと作品の距離をより近づける効果があります。
 日本には、都会だけでなく、多くの風光明媚な街があります。それらにスポットライトをあて、現実と空想を結び付けた作品作りは、まさに、アニメならではのものと言えます。それに気づかせ、浸透させた本作品の制作陣の発想力、挑戦心には、本当に頭が下がります。これからも、素晴らしい作品作りを期待しています。
(川崎由紀夫)
妖怪ウォッチ
誕生の秘密だニャン!
YO-KAI WATCH
the MOVIE
ファミリー作品賞
監督:髙橋滋春
   ウシロシンジ
 ずっと不思議に思っていたことがある。どうして子どもたちが熱中するアニメーションや漫画、ゲームに、頭から反対する大人がいるのだろうか? という素朴な疑問である。
 俗悪だから? 教育上好ましくないから? 目の毒、頭の毒だから?……疑問は次つぎ出てくるが、答が出ない。やっと出た答が、「大人は子どもに嫉妬している」だった。大人が失ったもの、例えば夢や冒険、挑戦ガッツ、悪いものを本能的に退ける純真さ、そして友情。それらすべてを子どもは真正面から受け止め大事にしている。大人は逆にそれらを取り戻せないことに、無意識のうちに嫉妬しているのだ。だから大人と子ども(親子)が、一緒に楽しめるものを作ることは重要なのである。
 「ファミリー作品賞」は、大人と子どもの溝を埋め、親子の絆を深める、そういう作品に与えられることこそ相応しいと思う。
 ゲームから生まれた「妖怪ウォッチ」は、アニメ、漫画、音楽、キャラクターグッズの世界で大活躍である。
 60 年の時を超えてケータとおじいちゃんのケイゾウは、「少年ビート」と「無敵王者ガッツ仮面」となって怪魔を倒す。
 『妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』が、第一回「ファミリー作品賞」に輝いたのはごくごく当たり前のことである。そしてまた、日本での最終的な観客動員数は700万人、興行収入は78億円。すごい数字ですが、これも当然のことである。
 「世界はトモダチ! ゼンブ守るぜ!」……大人になっても失なってはいけない観客全員の心と言える。
(後藤広喜)
橋本昌和
Masakazu Hashimoto
監督賞
受賞作品:『映画 クレヨンしんちゃん
       オラの引越し物語 サボテン大襲撃』
 思いきり笑わせて、ハラハラさせて、ストンと落として泣かせる。人間の本質に向けられた鋭い視点が、そこにある。本郷みつる監督、原恵一監督、水島努監督と才気あふれる歴代クリエイターが連綿と培ってきた、そんな「しんちゃん映画」の文脈を踏襲しつつ、シリーズ第23 作目の橋本昌和監督は新たな1ページを加えた。
 美味な新種サボテンを買いつける目的で、寂れたメキシコの街へと転勤した野原一家。ところが幸福をもたらすはずのそのサボテンは、文字通り牙をむいて住民を襲撃し始めた。「人喰いキラーサボテン」が登場する本作は、「B級モンスターパニック映画」の体裁をとっているのが、まずは驚きだ。メインターゲットの児童が進んで観るジャンルではない。そこには新鮮な挑戦が仕掛けられている。
 住民の大半を喰われた街に残されたメンバーは、曲者ばかり。そしてスーパーマーケットへ物資調達を敢行し、モンスターの弱点に緻密な作戦をたてるなど「ホラー映画のお約束」が次から次へと登場する。極限状態で人のむき出しの欲望が浮き彫りになる中でも、「しんちゃん映画」としてのユーモアは決して忘れない。同時に「スマフォを手放さない少女」など、現実を照射する批評的要素も盛り込まれていて、実に卓越したバランス感覚が、映画の随所から感じられる。
 絶体絶命に追いつめられた状況下だからこそ、どうしようもない存在と思えたオトナたちが助けあう奮戦。絶望の中から輝きをみせる刹那の人間味が、決して形だけ「ホラー映画」を踏襲したわけではないことを伝えてくれる。これは政治家などオトナに違和感を感じている現代の子どもたちにこそ、見せるべき映画なのだ。興行収入22.8億円とシリーズ歴代最高記録を達成。「ジャンル映画の役割」に真摯に向かいあい、内容・ビジネスの両面で成果を出した監督たちの志を讃えたい。
(氷川竜介)
バケモノの子
THE BOY AND THE BEAST
作品賞
監督:細田守
 『時をかける少女』(2006)以来、3年に1作ずつオリジナリティあふれる話題作を提示し続けてきた細田守監督。過去3 作では、「恋愛」「結婚」「子育て」とモチーフをステップアップさせてきた。それに連なる最新作では、家族という関係性が希薄になった現代日本を投影して「疑似家族」を主軸に据えた。
 舞台は「現実世界」(東京・渋谷)と重なり合う異世界・渋天街。そこに暮らすのは、「動物の顔をした人びと」である。まさにアニメーションでなければ描けない仕立てだ。9歳の主人公・九太は荒々しい武闘家・熊徹に弟子入りする。きっかけは互いに「孤独な者」であり、どこか自分に似た部分を見いだしたからだ。今後の社会ではこの種の「疑似家族」の必要性が増すはずだから、優れた着眼点である。
 しかし「師弟関係」とは言え、不器用な師匠はうまく教えることができない。「生活をともにする」ということを通じて行動原理や価値観が伝搬していく点も「疑似家族」にリンクしている。こうした普遍的な問題意識を、剣術・格闘技などアクション重視の映像に織り込みつつ、ユーモラスにテンポよく進める娯楽性がいい。
 ところが細田守監督自身による脚本は、映画後半に至ってトーンを大きく変えていく。17歳に成長した九太は現実世界の渋谷に帰還し、そこで同年代の少女と出会い、実の父との再会を通じて自分が何者かを悩み出す。境界におかれた者のアイデンティティ模索は、過去の細田守作品でも何度か描かれてきた。そして、ここに至って気づかされるのである。「これは総決算的な映画なのだ」と。
 入り口は広く、子どもから中高年まで幅広い観客層に訴えかけるような娯楽作として、本作は興収58.5億と高い成果をもたらした。アニメ用の完全オリジナル作品に大きな成功をもたらした点ふくめて、全方位的な姿勢が高く評価できる作品である。
(氷川竜介)
友永和秀
Kazuhide Tomonaga
功労賞
 
 「宇宙戦艦ヤマト」(1974)では、急降下爆撃機の編隊が一機ずつタイミングをずらしてダイブ、劇場版『銀河鉄道999』(1979)では、戦艦アルカディア号がゆったり前進しつつ、交錯した主砲が火を放つ。宮崎駿監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)では、車がサスペンションを沈ませて手榴弾の爆発をかわし、急勾配の崖を一気に駆けのぼる。
 一度見たら忘れられず、その爽快感で作品世界全体を支配するインパクトを放つ名場面。アニメーターとしてその原画を手がけ、多くの後進の目標にもなった人物が、友永和秀だ。特に1970年代のメカ、ロボットのアクションやエフェクト表現、人情味とユーモアあふれるキャラクターの演技で注目され、ライバルであり盟友の故・金田伊功と並んで、卓越した動きのセンスでファンの心をときめかせた。特に「重量感」「存在感」「動きのメリハリ」では、後世に大きな影響をあたえている。
 アニメファンの評価は、とかく「作画監督」や「キャラクターデザイナー」などが「顔をどう描くか」という点に偏りがちだ。しかし、アニメーションの根幹にあたる「動き」をつくって表現し、観客の心の底に刻みこませるのは「原画マン」の仕事。それを体現した点での功績は大きい。
 1980年代以後の友永和秀は、テレコム・アニメーションフィルムで活動。海外向けに製作された『NEMO/ニモ』(1989)でアニメーションディレクターをつとめる。2012 年に短編『BUTA』で初監督を経験。2015 年には長年「ルパン三世シリーズ」に参加し、数々の合作アニメを手がけた実績を買われ、イタリア先行放送の新TVシリーズ「ルパン三世PART IV」の総監督に就任した。
 日本の東映動画(現:東映アニメーション)の初期長編スタッフと、アメリカのディズニーの初期長編スタッフの両方に指導を受けた数少ないアニメーターのひとりでもある。国際化、歴史継承の観点でも功労あるクリエイターである。
(氷川竜介)
内田健二
Kenji Uchida
功労賞
 
 内田さんは、1978 年に当時の日本サンライズに入社、制作デスクなどを経て、1985 年、「機動戦士Zガンダム」で、プロデューサーとなりました。その手腕の高さで、ガンダムシリーズの輝かしい歴史を作り上げましたが、挑戦心の強い内田さんは、それだけに留まらず、「ミスター味っ子」「コードギアス」「ケロロ軍曹」など様々なジャンルのアニメに挑戦し、成功に導きました。また、アニメの世界を大きく広げたいという気持ちを強く持つ内田さんは、制作者としての立場に留まらず、海外業務などでも実力を発揮なさいました。その実績をもとに、2008年から6年間、サンライズの代表取締役社長を務め、さらには、その力をアニメ業界全体が必要とし、2014年4月から2年間、日本動画協会の理事長もなさいました。では、内田さんとは、どんな方なのでしょうか?僭越ながら関係者に聞きました。
①「新たな才能をいつも探している人」
内田さんは、常にエンターテイメント界をチェックし、優秀なクリエーターを追い求めています。作品作りの際、「初めて組む」「初めて起用する」といった要素を重要視しています。その熱心さゆえ、他社に所属する人でも、いったん目をつけると、声を掛け続け、口説き落とすそうです。
②「聞き上手な人」
多くの人が、内田さんを、アニメ業界において、実力クリエーターに最も信頼され、最も顔が広い人だと話します。多くの有名監督が、相談に来るそうです。飲みに出かけるのは、2人だけが多く、じっくり相手の話を聞くそうです。
 色々な人から情報を集め、新しいものを追い求める姿勢は、海外という大きな市場を目指す上では、大変重要なものです。これからも、内田さんならではのやり方で、アニメ業界を引っ張って行って下さい。
(野島孝一)
渡辺宙明
Chumei Watanabe
功労賞
 
 日本でもっとも経歴が長い「映画音楽の長老格」である。特撮・アニメの両方にわたって幅広く活動し、その歌と劇中音楽は「宙明サウンド」と呼ばれて世代を超えて親しまれている。「マジンガーZ」(1972)、「人造人間キカイダー」(1972)、「秘密戦隊ゴレンジャー」(1975)など1970 年代からロボットアニメや特撮ヒーローものに、歌と劇中音楽を提供し、数々のヒット曲を生んだ。バトルシーンはパワフルで軽快、ドラマシーンでは叙情的で奥行きのあるメロディーを多く提供。1980 年代中盤からは、そんな熱い作品で育ったファンがアニメの作り手となって、「戦え!! イクサー1」(1985)や「破邪大星ダンガイオー」(1987)などOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)に活動範囲をさらに拡げた。
 新東宝製作、国産初の変身超人が登場する特撮映画『スーパージャイアンツ 鋼鉄の巨人』(1957)から近年のTVアニメ「プリキュアシリーズ」、深夜アニメ「俺、ツインテールになります。」(2014)に至るまでの作曲歴は、なんと60 年近くにもおよぶ。その長期にわたり現役を継続してきた映画スタッフという点でも、大きな賞賛に値する。
 2015年には卒寿(90歳)を迎え、レア楽曲多数を含むコンピレーションアルバムが各社から続々とリリースされて、音楽生活の総決算が行われた。特に卒寿記念コンサートでは歌メインではなくTV用劇中音楽をオリジナル編成のまま演奏することで、映像づくりの現場感覚をファンへダイレクトに伝える試みを実行。そのステージでも新曲を発表するなど、常に衰えぬ創作威力は、中高年となったリスナーの心を今も活性化し続けている。
 いつも笑顔を絶やさずファンとの距離感も近く、「映像に力をあたえる音楽の存在感」を全方位的に示してきた功績は、アニメーションのみならず映像業界全体にとっても非常に大きいものだ。まさに功労を讃えるのにふさわしいクリエイターである。
(氷川竜介)
永井豪
Go Nagai
ダイヤモンド大賞
 
 永井豪は、作家生活を漫画家としてスタートしている。漫画家デビューは1967 年、22 歳の時であるが、永井豪の人生には三つの転機があったと思う。
 ひとつめは、大学進学を止め石ノ森章太郎のアシスタントをしながら漫画家を目指したこと。ふたつめは、デビュー間もなく「少年ジャンプ」に連載した「ハレンチ学園」で一世を風靡し人気漫画家の地位を獲得したこと。三つめは、「デビルマン」の連載によって、ギャグ漫画家だけでなくSFストーリー漫画家としても創作領域を広げると同時に、アニメーション作家としても大きくステップアップしたことである。この間わずか5 年、早熟というべきか急成長というべきか、早くもマルチ作家としての目標を達成したのである。
 永井豪は、内に矛盾概念を抱えた作家である。神と悪魔、人間的なものと悪魔的なもの、愛と殺りく、正義と悪、理性と狂気、このお互いに対立するものを自らの中に自覚的に持っている。もしくは二律背反をテーマとして背負っている。
 手塚治虫、石ノ森章太郎亡き後、その衣鉢を継いだ永井豪は、漫画にアニメにものすごいスピードで作品を作り続けている。その様は、自らの内にある矛盾と戦う戦士にも見える。今また、師匠・石ノ森章太郎の大作「サイボーグ009」と自作「デビルマン」をコラボレーションしたOVAを発表し、新しい境地を開こうとしている。
 古希を過ぎて猶、童顔を持つ男、永井豪は存在そのものが矛盾を抱えたデビルマンだ!
(後藤広喜)
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