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24回受賞作品


安藤サクラ
Sakura Ando
主演女優賞
受賞作品:『0.5ミリ』
     『百円の恋』
 第22回日本映画批評家大賞では『かぞくのくに』で主演女優賞に輝いた安藤サクラ。2014年の活躍は目を見張らせられた。『0.5ミリ』と『百円の恋』。どちらも堂々の主演で、甲乙つけがたい熱演。まさに女優冥利に尽きる。
 『0.5ミリ』は安藤サクラのファミリー映画だ。脚本・監督は姉の安藤桃子。プロデューサーは父・奥田瑛二。母の安藤和津はフードデザイナーとして参加。サクラにとっては、夫・柄本祐の父・柄本明まで出演している。もともとは姉・桃子が日本の老人社会福祉問題を斜め目線でとらえたオリジナル脚本から始まっている。高知でロケーションを行い、桃子監督は結婚、懐妊というおめでたにつながった。サクラが演じる介護ヘルパーのサワが、「冥土のみやげにおじいちゃんと寝てくれませんか」と家人に頼まれるところから、予測不能のヘルパー・ストーリーになる。日本の老人介護にメスを入れながら、豪快に笑い飛ばし、かつ人情にほろりとさせられる絶好調の作品になった。安藤サクラの老人ゴロシの魅力はなかなかのもので、「これなら俺もやられるわい」と感心することしきりだった。
 『百円の恋』(武正晴監督)は、もっと体を張った作品になった。実家で引きこもり、ごろごろしている32歳の一子(安藤サクラ)は妹と折り合い悪く、実家を出て独り暮らしするはめに。百円ショップで働くうちにボクサー(新井浩文)と付き合うようになる。ひょんなことからボクシングに興味を持った一子は、がぜんボクサーを目指す。デブで動きがのろのろしている超不精女からボクサーへの変身。安藤サクラの肉体改造は、『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロもかくやというものすごさ。人間やればできるというオーラを振りまきながら安藤サクラは女優業を突っ走った。
(野島孝一)
綾野剛
Go Ayano
主演男優賞
受賞作品:『そこのみにて光輝く』
 「2014年は綾野剛イヤー」と言っても過言ではない。『白ゆき姫殺人事件』、『そこのみにて光輝く』、『闇金ウシジマくん』、『ルパン三世』と映画4本に、テレビドラマ「S-最後の警官-」、「闇金ウシジマくん」、「ロング・グッドバイ」、「すべてがFになる」に出演。作品ごとに全く違う“顔”を見せ、期待を裏切らない。彼の場合、役を“演じる”というよりも役を“本気で生きる”俳優。だからこそ、どんなに多くの作品に立て続けに出演してもマンネリにならず、新たな魅力を発揮する。
 2003年に「仮面ライダー555」で俳優デビュー。『クローズZERO Ⅱ』(09年)で注目を集め、映画、ドラマ、CMに引っ張りだこの存在となった綾野。主演作『そこのみにて光輝く』は間違いなく彼の代表作だ。原作は芥川賞の候補に何度も名前が上がりながらも受賞が叶わず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の長編小説。北海道・函館を舞台に、それぞれワケありの男女が出会い、繰り広げる壮絶なひと夏のドラマを描いたもの。
 綾野が演じるのは、事故で部下を死なせてしまったことがきっかけで仕事を辞め、その罪悪感を抱えながら自堕落な日々を送る主人公・達夫。酒浸りでタバコが手放せず、夜ごと悪夢にうなされている。ある日、パチンコ屋で乱暴者だが憎めない拓児(菅田将暉)と知り合い、誘われるまま彼の自宅に向かうと、そこは時代から取り残されたようなボロボロのバラック。そこで拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会う。貧しい一家の生活を支えるため、秘密を抱えながら水商売で懸命に働く彼女と愛し合うようになり、生きる意味を見直していく。まるで自分自身を罰するかのように痛めつけ、苦悩する姿は、心が流す血まで感じさせるほど。生きる希望も夢もない絶望的な眼差し、汗や体臭まで伝わりそうな存在感に圧倒される。今年も主演作『新宿スワン』他3本の映画が公開。本物の輝きを放ち続ける彼から目がはなせない。
(津島令子)
池脇千鶴
Chizuru Ikewaki
助演女優賞
受賞作品:『そこのみにて光輝く』
     『海月姫』
 リハウスのCMで注目され、1999年には市川準監督の『大阪物語』に主演。達者な大阪弁をあやつり、14才の少女をみずみずしく演じ、「日本アカデミー賞」「毎日映画コンクール」「キネマ旬報」等、あらゆるメディアの新人賞を総なめにする。
 続く『金髪の草原』(犬童一心監督)でも、現実をそのまま切り取ったような自然な演技を見せ、見事に映画ファンの期待に応える。同監督による『ジョゼと虎と魚たち』では、それまでのどこにでもいそうな少女から一転、乳母車に乗った足の不自由な、それでいて生命力にみなぎる不思議な女性を大胆に演じ、そのセリフ廻しとたたずまいには凄みさえも漂わせていた。
 その後も『20世紀少年』『必死剣 鳥刺し』『舟を編む』など、SF、時代劇、何でもござれで独特の存在感を示し続けた。
 呉美保監督の『そこのみにて光輝く』に於いては、池脇千鶴は海辺のあばら屋に住み、わずか8000円で体を売り、シオカラ工場でパートを続け、妻子のある中年男とずるずるの関係を引きづるという、体中に不幸が染みついたような女の姿を、驚くべき説得力で体現する。深い悲しみ、憤り、絶望、そしてその中に芽生えていく不器用な愛……どんなに汚れても不潔にならない一途な女の姿が見る物の心を打つ。まさに渾身の演技である。
 一方の『海月姫』(川村泰裕監督)では、顔の半分以上をアフロヘアーで隠した鉄道オタクの役を楽しそうに演じている。ま、時にはこんな役もあってもいいですかね……。
 あらゆるタイプの役柄をそつなくこなし、時には特大の場外ホームランもかっとばす、まさに平成の名女優。持って生まれた演技センスに様々な経験値が加わり、今や間違いなく日本映画界を代表する実力派の女優の一人となった。
(島 敏光)
菅田将暉
Masaki Suda
助演男優賞
受賞作品:『そこのみにて光り輝く』
     『海月姫』
 菅田将暉のことは、初の主演映画『共喰い』(2013年)で注目していた。芥川賞を受賞した田中慎弥の小説を荒井晴彦の脚本、青山真治監督で映画化。暴力をふるう父のもとで暮らす鬱屈した高校生の役で、ポスターの写真が若き日の石原裕次郎をしのばせた。いわゆる目力のある役者だと思った。2014年の『そこのみにて光輝く』では、ぐうたらなチンピラの役ではあるが、異彩を放っている。この映画は、大変評判が高く、日本映画批評家大賞でも呉美保監督の監督賞、綾野剛の主演男優賞、池脇千鶴の助演女優賞、そして菅田将暉の助演男優賞と独占状態だ。この映画は、貧しさの中で懸命に生きる若い人たちを描いて、余韻を残す。菅田将暉が演じる大城拓児は、がさつだが姉思いの気のいい青年で、一生懸命に頑張りたいと思っている。だが、世の中からはずれてつまらない犯罪に手を染めたりする。パチンコ屋で知り合った青年と、姉の間を取り持つなど、いいところがあるやつだが、世の中をうまくわたっていけない。そんなところに佐藤泰志の原作の趣が感じられる。調子がいいところを含めて、菅田将暉が持ち味を発揮している。ある種の哀しみを胸に秘めているところもいい。
 『そこのみにて光輝く』に比べると、評価は軽いかもしれないが、『海月姫』の菅田将暉は、私にとって驚きだった。漫画が原作とはいえ、誰が彼に女装させることを考えたのか。主演の月海(能年玲奈)にとって大事な鯉淵蔵之介を演じた菅田将暉。政界大物の御曹司でありながら、遊び感覚抜群のデザイナー才能を持つ。まあ、その女装が鮮やかなこと! しかもファッションショーで舞台をしゃなりしゃなりと歩く艶姿にはボー然となった。あだ花というなかれ。菅田将暉は女の色気も演じられる稀有な男優なのだ。
(野島孝一)
大島美幸
Miyuki Oshima
新人女優賞
受賞作品:『福福荘の福ちゃん』
 お笑いタレントは芝居が上手い、とは巷でよく言われる話だ。確かにその通りで、目の前の観客を爆笑させる感性やデリカシーがあれば当然の帰結かも知れないが、それでも『福福荘の福ちゃん』の大島美幸の演技には心底驚かされた。
 大島は言わずと知れた女性三人組の人気お笑いグループ・森三中のボケ担当。羞恥心を放棄したかのような捨て身のギャグはいさぎよくバカバカしい。映画ではこれまでにも『グーグーだって猫である』『クロサワ映画』『漫才ギャング』などに脇役として登場していたが、本人のキャラの延長上にあるような役が多く、その演技力は未知数のままだった。
 ところが今回の福福荘では押しも押される主人公。しかもおっさんの役である。これが物の見事にハマッた。栃木弁だか茨城弁だか、微妙なナマりの抜けないどんくさい塗装工。まさに華やかさの全くない「一人裏宝塚」。ささやかな楽しみはアパートの仲間と安酒を酌み交わすことと、凧揚げ。女には臆病で無縁だが、男気はたっぷり。うん、いるいる、こういうおっさん、と思わせておいて、一筋縄ではいかないいじけた魂がひょいと顔を出す。その声、その表情、身のこなし点どれを取ってもそこらへんのおっさんになり切り、お笑いの片手間というレベルを遥かに超えた存在感をスクリーン上にかもし出す。上っ面ではない深い根っこの部分でしっかりと自分の役をつかまえている。恐るべき新人女優の誕生である。
 さて、この次はどんな役を演じるのか、とても想像がつかないし、需要があるかどうかも分からないが、この規格外の演技力は決して埋もれさせてはいけない。それが日本映画界の務めであり、本人にもそれをキッチリと自覚して、次につなげてもらいたい。決してたまたまの当たり役で終わらせてほしくはない。
(島 敏光)
小芝風花
Fuka Koshiba
新人女優賞
受賞作品:『魔女の宅急便』
 角野栄子の原作で世界的児童書として読み継がれてきた「魔女の宅急便」。1989年には宮崎駿監督によりアニメーション映画に、93年には蜷川幸雄の手でミュージカルとなり、いずれも大ヒットを記録した。その「魔女宅」が初めて実写映画になると聞いて、「あの小さな魔女・キキを一体誰が演じるのだろう?」と話題になった。結局、オーディションで決めることになり、 500人を超える候補者の中から主人公の座を射止めたのが、新星・小芝風花である。
 キキは13歳の設定だが、撮影当時16歳の風花ちゃん。清水崇監督から「16歳だからこそ伝えられることもあるんだよ」と言われ、心機一転、キュートな笑顔でアクションシーンにも果敢に挑戦している。
 19974月生まれ、大阪府出身。14歳のときに、イオンとオスカープロモーションが共同で開催した「ガールズオーディション2011」でグランプリを獲得し、芸能界入り。浅田真央に憧れて、小学校3年生から中学2年までフィギアスケートを習っていた経験を生かし、ドラマ「スケート靴の約束~名古屋女子フィギア物語~」では、華麗なスケーティングを披露している。
 見かけは天真爛漫なタイプと思いきや、小さい頃から負けず嫌いの性格で、初めての映画撮影現場でもプレッシャーどころか堂々たる演技で、注目を浴びた。
 約2カ月半に及んだ撮影期間、中盤以降は香川県の小豆島から始まって、岡山、山梨、千葉、茨城などのロードへ。この映画の象徴ともいうべき、ワイヤーを使ってのほうきに乗って空を飛びまわるシーンも、笑顔と度胸で無事乗り切った。
 次回作は、秋公開予定の川村泰祐監督『ガールズ・ステップ』で、ダンスを通じて成長していく等身大の高校生を演じている。これからもさまざまな役を経験しながら、魅力的な女優に成長していくことに期待したい。
(平山 允)
登坂広臣
Hiroomi Tosaka
新人男優賞
受賞作品:『ホットロード』
 2014年レコード大賞を受賞した「三代目 J Soul Brothers」のボーカルとして絶大なる人気を誇る登坂広臣。美容師、カリスマアパレル店員を経て、2010年にオーディションに合格。週刊EXILEで「経験値ゼロのシンデレラボーイ」と紹介された登坂。サッカーで鍛えた身体能力の高さ、イケメンぶりはデビュー早々から話題を集めていたが、10代の女性のバイブルと称される不朽の名作コミックを実写映画化した『ホットロード』で俳優としてもデビュー。新たな魅力を知らしめた。この作品は、母の愛を感じられず、居場所をなくした14歳の少女・和希(能年玲奈)が刹那的に生きる暴走族の少年と出会い、恋に落ちる姿を描くラブストーリー。
 登坂が演じるのは、“Night’s(ナイツ)”という不良グループに属する不良少年・春山洋志(ハルヤマ)。和希とはじめは衝突し、傷付け合ってばかりだが、次第に惹かれ合い、一緒に暮らし始める。穏やかで幸せな生活が続くかに思われたが、仲間たちから慕われていたハルヤマは“Night’s”のリーダーとなり、敵対するチームとの抗争に巻き込まれていく…。
 望まれて生まれてきたのではないと苦悩する和希を愛し、守ろうとする思いと、仲間たちを率いるリーダーとしての責任の狭間で揺れる思い。切り込み隊長として数々の修羅場をくぐってきたハルヤマが、和希という守る存在が出来たことで複雑に揺れる心情を登坂が繊細に体現。切なげな表情に胸が締め付けられる。ハルヤマは“優柔不断”を“優しさ”だと錯覚する軟弱な男ではない。「おまえ、俺の女にならない?」、「おまえ、俺の事がすっげぇ好きじゃん」、「俺がいなきゃ何も出来ねえ女になんかなるな。俺のことなんかいつでも捨てられる女になれ!」…シビれるような男っぽいセリフも絵になる。常日頃、楽曲の世界を歌で表現しているだけに存在感大。スクリーンでまた会えることを期待している。
(津島令子)
工藤阿須加
Asuka Kudo
新人男優賞
受賞作品:『1/11 じゅういちぶんのいち』
     『百瀬、こっちを向いて。』
 いよ、新人王! プロスポーツの選手なら、そう声をかけたくなる。なにしろ父は福岡ソフトバンクホークスの工藤公康監督、妹はプロゴルファーの工藤遥加。スポーツ一家で育ち、テニスの腕はテレビ番組で錦織圭選手と戦い、ハンデ付きながら勝ったというすごさ。プロを目指したこともあったが、俳優に。プロになっていたら錦織に次ぐ存在になっていたかもしれない。学生時代、野球はやっていなかったが、TBSテレビの「ルーズヴェルト・ゲーム」(2014)では解散が決まった企業野球チームのエースピッチャーを演じたくらいはまり役になっている。昨年は西武ドームで父と同じ背番号47のライオンズのユニフォームを着て始球式を行った。映画は『悪の教典』で生徒役をやったのを皮切りに、『1/11 』や『百瀬、こっちを向いて。』で存在感を示した。ことに『1/11』では高校一のイケメン越川役で、クールなかっこよさが女子高生の話題になった。『アゲイン 28年目の甲子園』(20151月公開)では、中井貴一が演じた元高校球児・坂町の高校時代を演じた。不思議に野球に縁がある。
 NHKの大河ドラマ「八重の桜」(2013)では主人公の新島八重の弟、山本三郎役に抜擢された。これは強運だ。あっという間に全国区の顔になってしまったのだから。その後もフジテレビの「ショムニ2013」や、テレビ東京のドラマ「永遠の」(2015)などテレビドラマで重要な役をこなしている。またテレビCMでは米トップモデルのジェラ・マリアーノと共演するなど、若手人気スターとして注目度を高めている。
 映画ではようやく知名度が上がってきたところ。一層の精進が必要だが、いい企画に遇う強運を自ら引き寄せてほしい。
(野島孝一)
山谷初男
Hatsuo Yamatani
ゴールデン・グローリー賞
 
 味のある役者とはこの人の事。人の良さそうなフツーの親爺から、ヒトくせもフタくせもある悪人と幅広い役を個性的に演じるベテラン俳優の山谷初男さん。
 1953年から舞台を踏み、映画は1964年の『ケチまるだし』でデビュー。60年代から70年代にかけ日活ロマンポルノやATG 映画に数多く出演。中でもベルギーやフランスで話題になった若松孝二監督の男と女の妖しい密室映画『胎児が密猟する時』や、恐妻家の妻をもつサラリーマンが呑んだくれて帰りそびれ旅に出る『性の放浪』などはちょっとした二枚目だが男の悲哀と哀愁も漂うインパクトのある役を熱演。当時の関連の作品について「名作たる所以は彼の演技による所が多い」といった評も残っている。
 70年以降は、青春、コメディ、時代劇、現代劇と様々なジャンルの映画はもちろんテレビや舞台にも登場しているが、山谷初男その人柄に触れることが出来るのは、温かい東北弁を交えたおしゃべりも楽しめるライブハウス。余り知られていない話だが、かの寺山修司さんが山谷さんのために書き下ろした曲は「日活ロマン・ポルノのヒロイン・ジプシーローズ嬢賛江」、「菅原文太を見にゆくブルース」など14曲。そんなに多く作ってもらった人はいない。
 現在81歳。出身の秋田では、実家の旅館を改築した「はっぽん館」(山谷さんのアダナ“はっぽん”)は劇場として地域に開放している。今年4月に公開の映画『セシウムと少女』に出演。蜷川幸雄演出の舞台「ハムレット」と多忙だ。
 手作りの編み物のように人生の酸いも甘いも編み込み年月を重ねた「はっぽんさん」のひと味違う演技に酔いしれたい !
(国弘よう子)
江波杏子
Kyoko Enami
ゴールデン・グローリー賞
 
 大映が盛んであった1960年代、70年代にもっとも輝いた大女優だったが、日本映画の斜陽期を経て、今の時代にも存在感を示す。1959年に大映入社。オーデションを受けた時にはまだ高校生だった。母は東宝の女優、江波和子。
 杏子は室生犀星の『杏っ子』などから芸名がつけられた。『明日から大人だ』(60)に続き、市川崑監督の『おとうと』(60)では、看護師の役でデビュー。しばらくは若尾文子らの影に隠れていたが、『女の賭博』(66)が大ヒットして、『女賭博師』(6771)のシリーズにつながった。弓削太郎、田中重雄などの監督によって、シリーズは17本も作られた。江波杏子の顔立ちは、どちらかというと西洋風に目鼻立ちがくっきりとしている。それが大胆な柄の着物を着て、サイコロ壺を派手に振り、「入ります!」とやるものだから、「昇り竜のお銀」さんは、たちまち男たちの心をつかんだ。藤純子が、<緋牡丹お竜>を演じた『緋牡丹博徒』も大ヒットしたが、元祖は『女賭博師』のほうで、東映が後追いしたかっこうだ。『女賭博師』と『緋牡丹博徒』は人気が拮抗していたが、70年代初めには両方ともなくなった。その後、江波杏子は、斎藤耕一監督の『津軽じょんがら節』(73)で都会から流れてくる水商売の女、中里イサ子を演じてキネマ旬報主演女優賞などを受賞、演技派女優として認められた。第65回(2010)毎日映画コンクールでは田中絹代賞を受賞した。テレビ、映画、舞台と活躍し、独自の女優路線を歩んでいる。2014年には古厩智之監督の『無花果の森』で、偏屈な女性画家を演じ、また三島有紀子監督の『ぶどうのなみだ』でもエリカ(安藤裕子)の母親役で不思議な透明感を漂わせていた。これから先も驚くような役を平然と演じて、にっこりとほほ笑んでいただきたい。
(野島孝一)
藤竜也
Fuji Tatsuya
ダイヤモンド大賞
 
 若者には若者、中年には中年、老人には老人の色気や器量があるとすれば、俳優の藤竜也は人生の節々でその魅力を存分に発揮してきた。幅広い演技力で主役も脇役もこなし、作品に貢献するいさぎよさが、同じ男性として憎たらしくなるほどカッコいい。
 1941年、北京生まれ。神奈川県横浜市で育つ。日本大学芸術学部に在学中、日活にスカウトされ、62年に『望郷の海』でデビュー。68年に先輩のスター女優だった芦川いづみと電撃結婚し、男性ファンを悔しがらせた。71年に退社するまで数多くの日活作品に出演。大島渚監督と組んだ76年の『愛のコリーダ』と78年の『愛の亡霊』で世界的に脚光を浴びる。03年には写真店の頑固な店主を味わい深く演じた『村の写真集』で第8回上海国際映画祭の最優秀男優賞に輝いた。
 徹底した役作りで知られる。クロード・ガニオン監督の『KAMATAKI(窯焚)』で陶芸にはまり、何度も個展を開催。『しあわせのかおり』では、中華料理の名人を演じるために重い鍋を自在に操れるようになった。
 最近もいい仕事が目立っている。昨年の『サクラサク』では、記憶の薄れた認知症の父親を好演。『私の男』では、オホーツク海の流氷の上で二階堂ふみと共演。『柘榴坂の仇討ち』でも、物語のキーになる秋元警部を格調高く演じた。そして今年は北野武監督の『龍三と七人の子分たち』で主役の龍三親分を軽快に演じている。1年前にインタビューしたとき「いまモテキですね」というと、「たまたまですよ」と軽くいなされた。俳優人生53年。浮き沈みがあっても、やりたい役がくるまでスタンバイして日常生活を楽しみ、ここぞというところで、いい仕事をする。そのプロ意識と向上心を見習いたい。
(垣井道弘)
呉美保
Miho O
監督賞
受賞作品:『そこのみにて光り輝く』
 小柄な身体の中に秘めた底知れぬパワーには、驚きをとおりすぎて、畏怖の念さえ抱かせる。長編3作目にあたる『そこのみにて光輝く』で監督賞に選ばれた呉美保さん。とにかく才媛である。
 三重県の生まれ。高校卒業後、数多くの若手実力監督を輩出した大阪芸術大学芸術学部映像学科に学ぶ。ちなみに『リアリズムの宿』『苦役列車』などの山下敦弘監督とは同期である。
 大学在学中の1998年に、認知症が始まった祖父の記録をホームビデオで撮影した短編が大林宣彦監督の目にとまり、それを機に大林事務所「PSC」に入社、映画界入りを果たす。スクリプターとして映画制作に携わるかたわら、自らも短編『め』『ハルモニ』を監督し、絶賛を博す。2004年に「PSC」を退社、フリーで脚本を書いた長編『酒井家のしあわせ』を映像化し、映画監督としての第一歩を踏み出す。2010年に脚本・監督を手掛けた『オカンの嫁入り』から4年後に、ようやく完成に漕ぎつけたのが本作ということになる。  原作は、41歳という若さで自ら命を絶った佐藤泰志が、死の前年に書き遺した唯一の長編小説。舞台は、海を臨む北海道・函館。
 大学の先輩、熊切和嘉監督が冬の函館を情熱的に撮った同じ原作者の『海炭市叙景』を観て、今度は夏を撮ろうと決意。その成果はラストの朝の海辺のシーンなどに凝縮され、忘れ難い印象を残してくれる。
 底辺に生きる主人公ふたりのラブストーリーだが、基本的には家族の絆を描くこの作品は、モントリオールの映画祭で最優秀監督賞を受賞したのを初め、国の内外でも賞を独り占め。作品、監督賞以外でも、主演の綾野剛以下、池脇千鶴、菅田将暉らキャスト、スタッフの評価も高く、“そこのみ”どころか、あちらこちらで“光輝いた”作品になっている。
(平山 允)
蔦哲一朗
Tetsuichiro Tsuta
新人監督賞
受賞作品:『祖谷物語-おくのひと-』
 日本最後の桃源郷「祖谷」の四季折々を背景に、壮大な大地に根をおろし時代に翻弄されながらも逞しく生きる人々を描いた『祖谷物語-おくのひと-』  蔦哲一朗監督は、ほとんどの映画がデジタルで撮られている昨今あえて反旗を翻し、本当の「映画らしさ」を追求するために完全35mmフィルムでの撮影を敢行。100年後、1000年後まで残る名作を製作しようと志しを高く持ち撮影に挑み、映画美を追求した長さも169分と堂々の大作だ。
 フィルムならではの深みある映像は、現代社会が見失っている“本当の豊かさ” を映し出す。それは、非科学的ではあるが、精神的に作り手の思いがフィルムの方が出やすいのではといった蔦監督の熱烈なるこだわり。  四季折々の祖谷の美しさを追求するために撮影以外のロケハンに一年かけ、キャスティングも自然児で汚れのない娘役に武田梨奈、人里離れた山奥で暮らすお爺に実際に山梨で畑を耕しながらもダンサーとして活躍している田中泯など徹底したこだわりだ。標高の高い自然の中での撮影のため、天気待ちはもちろん、体力も精神力も役者たちは削られていく。そんな中の秋のシーンでは、フィルムが回った途端に、秋風が吹き落葉が見事に役者の顔に当たるといった神がかった奇蹟も経験したと言う。
 1984年。徳島生まれ。高校野球で一世を風靡した池田高校野球部元監督蔦文也監督の孫だが、なぜか小中高とサッカー少年。東京工芸大学の授業で16mmフィルムの映画を製作し、映画の楽しさに出会う。その後、アナクロ映画集団「ニコニコフィルム」を立ち上げ、独自の方法で自家現像や焼き付けなどすべての作業を行い『夢の島』を発表。国内外の映画祭で好評を博し、つづく『祖谷物語-おくのひと-』は、すでに数多くの賞を受賞している。
 こだわり抜いた作品の登場が楽しみだ。
(国弘よう子)
清野英樹
Hideki Kiyono
編集賞
受賞作品:『捨てがたき人々』
 『捨てがたき人々』はジョージ秋山原作、日本映画批評家大賞新人監督賞も受賞したことのある榊英雄監督の初成人指定(R-18指定)映画だ。
 映画のキャッチコピーは「なにゆえ、わたしは、この世に生を受けたのでしょうか……」
 主人公が生まれ故郷の五島に帰り、そこで暮す人々との関わり合いを描きつつ物語が進んでいく……。
 男の生き様と言うか、男の本質を真正面に捉えている作品に、編集の素晴らしさが光る。ショットは比較的長回しで撮影しており、淡々とした男の心情はもちろん、それを受けてたつ女の深い情念が、撮影よりしつこい位描かれている。カット尻も長めに編集し、いらないところはズバッと切る。本当に感心した。
 この賞の冠にもなっている浦岡敬一氏が、かつて大島渚監督の『愛のコリーダ』で日本初ハードコアと言われ、もてはやされたことを思い出す。
 浦岡は人間の性を真正面で編集していた。そして、清野の編集は浦岡を思い出させる。それはきっと、清野が浦岡に就いた最後に助手だったからに違いない。浦岡の教えを守り、活かした、素晴らしい編集であった。
 今回、ダイヤモンド大賞を『愛のコリーダ』で主演・吉蔵を務めた藤竜也氏が受賞したのも偶然とは思えない。かつて清野が編集を辞めようと思ったときに、浦岡が編集者の生き様を見せたからこそ、今、清野英樹がここにいるのだ。
(日本映画批評家大賞事務局)
0.5ミリ』
"0.5mm"
作品賞
監督:安藤桃子
 新進気鋭の安藤桃子監督が自身の小説を映画化した『0.5ミリ』は、妹の安藤サクラが演じる介護ヘルパー、山岸サワのキャラクターが際立っている。したたかなサワは、介護の技術だけでなく、悪知恵が働くし、正義感も強い。軽快なフットワークで独居老人や老老介護、認知症といった現代の日本が直面する高齢化社会の現実に立ち向かっていく。ロードムービーの形式を踏まえた3時間16分の長尺だが、退屈するどころか、もっと見たいという気持ちにさせる。
 冒頭のプレシークエンスで、派遣先の家族から「冥土の土産におじいちゃんと寝てあげてくれない?」と頼まれたサワは、親切心から人生の崖っぷちに立つ。生きるために、押しかけヘルパーになった彼女は、駐輪場の自転車をパンクさせていた老人の茂や、女子高生の写真集を万引きしていた元教師・義男の弱味につけこんで家に入り込む。最初は迷惑がっていた老人たちが、サワに心を開いていく過程がとてもいい。毎日の料理や掃除をテキパキとこなし、高齢者を狙う詐欺師を果敢な頭突きで退治する。こんなヘルパーさんがいたら我が家でも大歓迎である。
 老人ホームに入所する茂は、宝物にしていた愛車の、いすゞ117クーペをサワにプレゼントする。1970年代に生産されたヴィンテージカーで、安藤監督の古い物を大切にするこだわりに感心した。この映画の後味がいいのは、高齢者や社会的弱者に対してちゃんと敬意を払い、ポジティブな人間讃歌として描いているからだろう。さすらいのヘルパーになったサワは、これからどこでどんな人たちと出会うのだろうか。往年の『渡り鳥シリーズ』や『男はつらいよシリーズ』のように、ぜひシリーズ化して欲しい。
(垣井道弘)
『夢は牛のお医者さん』
"A Little Girl's Dream"
ドキュメンターリー賞
監督:時田美昭
 このドキュメンタリー映画は日本映画ペンクラブでも部門1位に輝いた。1987年、新潟県の山間にある小さな小学校で牛を3頭飼いはじめた。高橋知美さんたちは牛の世話をすることになった。その様子をテレビ新潟の撮影クルーが取材した。この映画の時田美昭監督もそのクルーの一員だった。小学校は廃校になることが決まっていた。時田監督らは、継続して牛の世話をする子供たちを取材した。そして<牛の卒業式>を迎える日が来た。この場面は、涙なくして見られない。本当に清い涙があふれた。子供たちが牛に寄せる愛情がひしひしと感じられた。高橋知美さんは、牛のお医者さんになると固く決意していた。テレビ新潟ではなおも知美さんを追った。親元を離れ、下宿生活する知美さん。成績が芳しくなかったので、テレビは一切見るのをやめた。そして国立大学の難関に挑み、見事に合格。獣医への一歩を踏み出した。今は結婚して子供を育てながら獣医として活躍する知美さん。26年間を追ったドキュメンタリー映画の根気には頭が下がる。
 テレビ番組は、そのときそのときで終わってしまう。1本の映画にすることによって、起承転結が完成する。だからこの映画はテレビ局と映画の見事なコラボレーションとして成果を得た。観客たちは、知美さんという少女が夢に向かって全速力で駆け抜けた足跡を確認し、その意思の強さに驚嘆する。映画を見て、自分も頑張ろうと思ってもらえれば、製作者は望外の幸せだろう。地方テレビ局ならではの地道な企画、息の長い取材が、映画という媒体に結実した好例として記憶されると思う。
(野島孝一)
米林宏昌
Hiromasa Yonebayashi
アニメーション監督賞
受賞作品:『思い出のマーニー』
 米林宏昌監督による長編アニメーション第2作である(第1作は2010年『借りぐらしのアリエッティ』)。ジョーン・G・ロビンソンによる英国の児童文学を原作として舞台を日本の北海道の湿地帯に移し、幼少期に肉親を亡くした孤独な少女・杏奈の心が開かれるまでを美しい自然風景の中で描いている。宮崎駿の関与がない状況下でスタジオジブリ作品に期待されるアニメーション映画としての魅力をふんだんに提示。実写映画で活躍してきた種田陽平を美術監督として招くことで、思春期の少女が示す心情の揺れをファンタジックな景観と色彩に寄りそうかたちで描き出した。米林宏昌監督はアニメーター出身だが、映画監督として長尺を支えるには作画面の素養だけでは不足である。登場人物の内面奥深くに分け入り、なぜここにいて何がしたいのか、根拠を他人や世界との関わりを通じ、きちんと映像化する必要がある。本作での米林監督は金髪で活発なマーニーと病弱な杏奈、2人のヒロインの交流を主軸に、見事にそのドラマを紡ぎ出した。洋館やマーニーの秘密も魔法のようなファンタジーではなくリアリズムに基づく地に足のついたもので、ジブリならではの精緻な画づくりふくめ好印象である。ジブリ映画第20作目の本作をもって、同社制作部は解散。CG の台頭で手描きベースのアニメが岐路にさしかかった象徴的な作品でもある。その意味でも、本作が清冽な印象を歴史に刻みこんだことには、実に意義深いものがある。今後の米林宏昌監督はジブリを退社して新作を準備するという。新たなフィールドで自身の世界観を思う存分展開し、さらなる未来を切り拓くことを期待する。
(氷川竜介)
梅澤道彦
Michihiko Umezawa
阿部秀司
Shuji Abe
アニメーション功労賞
 
 ドラえもんは、言うまでもなく、日本の漫画・アニメの実力を世界中に知らしめた作品である。子供の頃に作品を見て受けたインパクトは強く、世界各国の様々な価値観の中で差異はあるものの、各人が大人になっていく過程で、想像力、発想力の重要性を気付かせる等、大きな影響を与えた。夢を現実にするには? 不可能を可能にするには? そうした思いは、技術革新を生み、次々に社会に役立つものや新商品を誕生させた。その点において、ドラえもんは、日本の技術力発展の一助になってきたと言っても過言ではないだろう。その功績のすばらしさ故、エンターテイメント作品でありながら、ドラえもんには、他の作品とは違ったハードルが課せられているように思う。特に、劇場版は、必ず抑えなければならないポイントがある一方で常に新鮮さを求められる。高いクオリティを保つ制作陣の奮闘ぶりに、同じ業界で生きる人間として、常に尊敬の念を持っているが、その中で驚かされたのが、この『STAND BY ME ドラえもん』だ。まさか、フルCGで来るとは‼ これが、最初にニュースに接した時の感想だが、よくよく考えてみると、確かにドラえもんらしい。ドラえもんはどんな材質なのだろうか? 素朴な疑問だが、色々想像は膨らんでしまう。まさに作品の原点、想像力を膨らませてもらうには、フルCGがぴったりということだった。歴史のある大型作品におけるフルCG化。非常に大きな決断であり、挑戦であった。それを見事に実現し、子供から大人まで、どれだけの人を感動の渦に巻き込んだことか。大成功に導いた方々、特に梅澤道彦氏、阿部秀司氏の熱意に敬意を表したい。
(川崎由紀夫)
山寺宏一
Koichi Yamadera
声優賞
 
 声優に求められる素養とは何だろうか。「演出家が求める演技を現実化する」という流れがひとつ。もうひとつは「役者からプラスアルファを提示して、演出家のイメージを触発する」というフィードバックがあるはずだ。山寺宏一はこれを高いレベルで実現できるスキルをそなえていることは当然だが、さらに「その上」を行くようなところがあり、そこが高く評価された。アニメーションのキャラクターは記号化されていて、魅力的ではあるが空想のものなので希薄さもある。それをしっかり現世につなぎ止め、「あたかもその人が出現した」という心証を万人にあたえることができるのである。声質も一定させず、役柄に応じて帯域や押し出しごと変化させる特殊な演技さえ可能。その芸域の広さは、両極にある登場人物まで演じ分けることができる。たとえば映画『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』では主人公・古代進で38歳になっても活気あふれるヒーローを演じる一方、TVアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」では敵側の独裁者デスラー総統としてクールで酷薄な声音を響かせている。またドワンゴ・スタジオカラー共同製作のWeb 連作短編企画「日本アニメ(ーター)見本市」では、林原めぐみとともに、たった2名でどんな役柄でもこなすというオールマイティーぶりを発揮している。TV番組の黎明期から活躍してきた超ベテラン声優の方々から見れば「何にでも対応するのは役者として当然」と言われるかもしれないが、そうした魂の伝統継承もふくめて「声優の核」を体現しているのが、山寺宏一という役者なのである。
(氷川竜介)
『楽園追放』
"Expelled From Paradise"
アニメーション作品賞
監督:水島精二
 骨太のSFアニメーションである。
 この作品は、ナノハザード(大災厄)により廃墟と化した地球上でどんな生き方を選択するのかを問いかけてくる。たとえばアンジェラの様に自らの肉体を捨てデータとなって電脳の世界「ディーヴァ」で暮らすか……ディンゴの様に荒廃した地上で気ままに生きるか……フロンティアセッターと名乗る自我を持った人工知能の様に外宇宙探査船で新しい生環境求めて旅立つか……!?「ディーヴァ」の保安担当官アンジェラと、その相棒である地上調査員ディンゴ、フロンティアセッターによる生きるための三つ巴の戦いが始まる。
 水島精二監督と去淵玄脚本担当は、明確な回答を提示する。作品テーマでもある管理社会に与えられる安全と悦楽よりも、自由とフロンティア精神を選ぶべきというメッセージである。
 説明口調の長セリフには少々閉口するが、未来への示唆にとんだドラマ展開は見応えがある。脚本がしっかりしているためでしょう。作品価値を決定するのは、斬新な映像美や派手なアクションシーンよりも脚本の良し悪しです。
 また管理社会への抵抗の旗印となる旧世界の価値観「JINGI」、フリーダムの象徴と思われる「F」のイニシアルの入った赤い帽子、外宇宙に旅立つ人工知能に「地球人類最後の末裔」としての役割を託す希望。これら作品細部にちりばめられたセリフやシーンは、作品全体に面白さの隠し味を与えている。SFファンだけでなく、大人の鑑賞に耐えるスパイスの効いた作品である。
(後藤広喜)
『ジョバンニの島』
"Giovanni's Island"
アニメーション特別賞
監督:西久保瑞穂
 主人公は、70年前に日本のどこにでもいたであろう少年である。そして、占領者としてのソ連の、同世代の少女が現れる。支配者の娘と被支配者の息子。その切ない心の交流。定番に思えるその描写は、圧倒的な歴史的事実を背景画としているが故に、観る者の心を打つ。
 『ジョバンニの島』は、第二次世界大戦直後の、色丹島(および樺太)を舞台にしたアニメーションである。モチーフとして宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が美しく織り込まれている。この企画を暖め続けてきた杉田成道氏に敬意を表したい。
 第二次世界大戦に限らず、悲惨な戦争や過酷な戦後体験がある一方で、その背後にはどの時代も変わらない大人たちの世知辛さや子供たちの純情がある。その両者は決して切り分けることなどできないことを、本作品は教えてくれる。
 歴史は教科書でのみ学ぶものではない。歴史を知るとは、過去の事実を知ることではなく、現在地からはるかに想像力を広げることであり、あくまでもその立脚点は現在である。現在の実感を、どこまで歴史的時点に引き連れていくかで、人はその歴史に対する共感を得ることができる。その共感の分だけ、人は歴史を学ぶのである。
 その想像力の拡翼の一助としてアニメーションが存在する。そのことを、この作品は人々に知らしめたであろう。その功績は大きいと考える。
 小説世界には、純文学と言われるジャンルのほか、冒険小説とか幻想小説とか、歴史小説などというものがある。本作品は、アニメの世界にも、歴史アニメとでも言うべきジャンルが根付く可能性を予感させる。
 最後に。子役の声優さん、「よく頑張りましたね」とこれも敬意を表したい。
(日本映画批評家大賞事務局 卯本淳)