いまを生きるすべての人に届いてほしいと切望する、生きることを諦めない映画であり、現代社会が抱える問題を、現実と地続きのエンターテインメントとして構築したそのバランスが素晴らしかった。
作品賞の選考にあたり重要視しているのは、物語に、主人公の背景に、時代を映し出す社会的な問題が見えるかどうかである。『愚か者の身分』は、犯罪組織に足を踏み入れてしまった若者たちが、闇ビジネスから抜け出そうとする3日間の物語。パパ活、生活保護を悪用するビジネス、戸籍や臓器の売買、運び屋……現代社会が抱える“いま”の貧困が題材になっている。
重たいテーマでありながらも、タクヤ、マモル、梶谷——年齢の異なる3人が、最終的にはそれぞれ相手を救い出す、希望をもたらす関係性もドラマチックだった。そもそも西尾潤による原作小説は5章から成り立っていて、脚本の向井康介は、すべての章に登場するタクヤを主人公に据えることで映画らしさを引き出した。
綾野剛から北村匠海へ、北村から林裕太へ、役を通して先輩俳優から後輩俳優へのバトンが受け渡されていることも作品に深みを与えている。綾野の世代が切り拓いた道を北村が歩き、その恩恵を今度は林に託す、そういった俳優のバックボーンも役に活かされている。彼らを引き合わせ、導いた、森井輝プロデューサーや永田琴監督の働きも大きい。
かつてビリー・ワイルダー監督は、「映画の8割は脚本で決まる」と言った。マーティン・スコセッシ監督は、「映画は9割以上がキャスティングで決まる」と言った。『愚か者の身分』は、そのどちらも傑出しており、両者の化学反応が各部署に影響を与えたことも想像に難くない。
そしてこの映画は、橋の上から始まり橋の上で終わる。始まりと終わりの場所が橋であることにも意味がある。それは、作り手から観客へ映画を“かけわたす”というメッセージ。記憶に残る橋のシーンは、間違いなく名シーンのひとつとなった。
授賞式典