JAPAN MOVIE CRITICS AWARD 第35回
日本映画批評家大賞
特設サイト

日本映画批評家大賞 公式サイトはこちら

JUNE 1 , 2026
At the Tokyo International Forum

主演女優賞
岸井ゆきの
『佐藤さんと佐藤さん』
岸井ゆきの
公式サイトはこちら
選考理由 (批評家コメント)

 癖がある役が得意なのか、岸井ゆきのが曲者なのか。映画『佐藤さんと佐藤さん』で、ヒロインの感情を毛細血管の如く繊細に体に行き渡らせ演じた岸井に主演女優賞を差し上げたい。
 本作は、岸井が演じる佐藤サチと宮沢氷魚演じる佐藤タモツの出会い、結婚、そして関係が揺らいでいく15年間を描いている。2時間の映画の中、ひとつの年齢のシーンはどれも長くはないが、サチの「今の環境と感情」を完全に理解した岸井の演技のグラデーションは自然だ。岸井の挙動でサチが何を欲し、何に囚われ、タモツに対してどう思っているかが伝わってくる。短いシーンでも岸井が演じることで情報量は多くなり、観客はスムーズに没入できるのだ。本作の監督・天野千尋も岸井について「芝居の密度が濃くて一個もごまかしがない」と完成披露試写の席で語っている。

 また、これまでも、岸井の「キレた演技」に怖がりつつ惚れ惚れしていたが、本作を観て、岸井は「相手をキレさせる演技」も見事に恐ろしいことに気づく。彼女が放つ言葉、態度が起爆剤となり、相手は怒りを掻き立てられる。言い方、トーン、その言葉に悪意がある時もない時も、極めて絶妙だ。岸井本人はいたって平和を愛し、普段は全く怒らない性格だというから、その怒りの感情や嫌悪をどこから集めて演技に昇華しているのか。

 タモツが夢を叶えれば夫婦も続く、なんなら元のいい関係に戻れるかも、タモツもそう思っているはず、とどこかで信じている女の都合の良さよ。冒頭とラスト、そんな自分に嫌気がさしながらも受け入れざるをえないサチの表情演技も素晴らしい。

 2009年のデビュー以来、エキストラやセリフのない役が長く続き、バイトを掛け持ちしてチャンスを待った。2017年に『おじいちゃん、死んじゃったって。』で映画初主演、今や出演作は絶えない。今後もキャリアを重ねながら、また新しい顔を増やし、「こういう人、本当にいる!」「これは私!」と思わせてくれると信じている。

(安田 佑子)
戻る
第35回 日本映画批評家大賞
授賞式典
チケットのご購入はこちら
日本映画批評家大賞とは