「夢は特にない。とにかく飯が食えて、雨風がしのげたら、それでいい」。永田琴監督の『愚か者の身分』で林裕太が演じたマモルは、前に進むよりも、心が雨宿りをしたがっている少年だった。マモルは、タクヤ(北村匠海)に誘われ、SNSを利用した闇ビジネスに手を染めていく。ラストシーンまで終始、林の目に宿る闇と光に引き込まれた。マモルの瞳に、林が生命を吹き込んだようだった。
奔放な母は出て行き、異父兄たちからは暴力を受けて育ったマモル。家を出て、タクヤと同じシェアハウスに入居してきたとき、長い前髪の隙間から見えるマモルの目は、警戒しながらも、誰かに救ってほしい捨て犬のそれのようだ。タクヤに拾われてからも、肩に触れられそうになるだけで、殴られた過去の記憶に怯えて目を潤ませる。深くは語られないマモルの過去を、林があの一瞬で見せてくれた。
やがてタクヤに絶対的に心を許すと、マモルの瞳に光が差す。タクヤとの日々が続くなら、今進んでいるのが悪の道かどうかなど、マモルには関係ないのだった。「カレー食いに行きません?」と茶目っ気たっぷりのLINEをタクヤに送るマモル。林が本来持つ、その人懐っこさと純粋さがマモルにも投影されたことで、その後のタクヤの選択に説得感を与えた。
タクヤを演じた北村は、「この映画はマモルのものだと(綾野)剛さんと話していた。裕太だからこそ描けたマモル像だと思う」と本作の舞台挨拶で語っていた。林も「(北村、綾野の)二人や監督、スタッフの皆さん全員が自分の居場所を作ってくれた」と振り返った。
犯罪は愚かだが、兄弟分の互いへの思いが尊い作品だ。梶谷(綾野剛)からタクヤ、タクヤからマモルへ受け継いでいくように、林自身もまた、この作品で大きなものを受け取ったに違いない。2000年生まれの現在25歳。彼がどんな映画人になっていくのか、どんなまなざしで走り続けるのか、これからの一歩に新人男優賞を贈りたい。
授賞式典